計画研究
白髭らは現在までにコヒーシン及びコヒーシンローダー(NIPBL)のAIDデグロン、Brd4のノックダウン、Aff4のノックダウン、HEXIMのノックダウンによりコヒーシン関連疾患の患者細胞で見られる形質(すなわちNIPBLの結合の低下)を再現することを試みてきた。その中で、1)NIPBLの結合低下がBrd4の結合低下を引き起こすこと、2)Brd4の結合低下はNIPBLの結合低下を引き起こすこと、3)Aff4の結合低下はNIPBLの結合の増加を引き起こすこと、4)用いた培養細胞ではAff4を大量発現しても NIPBLの結合の低下は誘導されないこと、を見出した。朴らは、転写制御ネットワークの情報学的再構成に向けたバイオインフォマティクス技法精査と情報基盤構築の整備を行った。情報解析手法に関して、Hi-Cなどの公共NGSデータを用いて、ゲノムDNA構造と遺伝子転写制御との関係性を可視化する線形回帰モデルのブラッシュアップを行った。また、非コードDNA領域の機能予測を行う畳込みニューラルネットワークをベースにした深層学習法を開発した。この予測器はプロモーターとエンハンサー部位をDNA配列情報のみで見分けるように設計されており、各種ハイパーパラメーターの精細な調節を重ねて既存SVM法の判別能を大きく改善した。これにより、コヒーシン関連因子の機能推定への多変量解析手法と深層学習の適用が容易になった。泉らは、新規希少疾患の原因として同定したNKAPとCBX1遺伝子異常による病態メカニズムを解明するため、NKAP・CBX1変異細胞そして、マウスモデルを用いた解析を行った。NKAPコンディショナルノックアウト細胞を用いた実験からNKAPが核と細胞質RNA輸送に関わる可能性が示唆された。CBX1遺伝子変異で条件的ヘテロクロマチンに存在する遺伝子発現がより強く影響を受けることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
コヒーシンローダーによる転写制御の実態にすくなくともpTefbの活性制御という新たな視点を得た。情報学的基盤構築、新規の染色体因子の遺伝病の発見等順調に進行している。
Brd4もAff4もpTefbと複合体を形成し、それぞれ、エンハンサー、プロモーターで転写の活性化に寄与すると考えられている。面白いことに、pTefBを機能的に抑制しているHEXIM複合体の減少はコヒーシンの結合低下を引き起こした。これら一連の観察が何を意味するかは現在までのところ不明であるが、プロモーターにおけるpTefbの活性上昇がコヒーシンとBrd4の結合低下を、逆に活性減少が結合の上昇を誘導するという仮設のもとに現在検証を進めている。朴は本年度に得られた成果を基に、今後、提案手法の多角的な精査を重ねるとともに、GMS試作版の公開と関連データの集約を進める。泉はノックアウトマウスを用いた解析を引き続き行う。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Open Biol .
巻: Volume 10Issue 7 ページ: -
10.1098/rsob.200052
Nat Commun .
巻: 11(1) ページ: -
10.1038/s41467-020-19878-4.