研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
20H05943
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 滋 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 教授 (10252503)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | コラーゲン / ヒレ / アクチノトリキア / 形態形成 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
昨年度までに発見した新規のコラーゲン蛍光プローブが、成体のコラーゲン観察に有用であることが明らかになっている。まず、非常に明るく、細い繊維も可視化できる。さらに毒性がない上に、長期間(30日以上)退色しないので、コラーゲン繊維の動態を観察できる。また、類似の分子により、波長の異なる蛍光での染色も可能であるため、個々のコラーゲン繊維の質的な変化も追跡できる。以下の新規知見は、その性質を利用して明らかになった。 アクチノトリキアの動態に関して、 (1)アクチノトリキアは、常にヒレの先端部に存在する。非細胞の大きな構造体が、体内を移動することは通常考えにくいので、先端で作られ、基部で分解されると考えられていたが、実際は、間違いなく先端部に移動していた。(2)個々のアクチノトリキアは、移動しながら成長するが、その成長は基部だけに起きる。(3)破骨細胞により、不要になったアクチノトリキアが分解される様子が動画でとらえられた。分解は、アクチノトリキアの密度が薄い領域で選択的に起きるため、この分解の選択性が、骨の2Dパターンを作っていることが示唆された。 垂直に立つアクチノトリキアに関して、 昨年度にAndo1,2遺伝子をKDした魚(F0)で、アクチノトリキアが垂直に立つ現象が見つかった。その詳細な解析のため、Ando1,2遺伝子をKOした系統を作成した。現在までに解っていることは、(1)Ando1,2遺伝子は、この現象に関して、ほぼおなじ効果がある。(2)垂直なアクチノトリキアは、ando遺伝子産物の、ある一定の低い発現の時に出現する。(3)前年に、両生類の肢芽で垂直コラーゲンが発見されたと報告したが、ヒレにおいては、よりはっきりと垂直コラーゲンの存在が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全体的に当初の計画よりも、大幅に進展していると自己評価している。第一に、コラーゲン分子の新規な蛍光標識法が発見されたことが重要である。これによって、我々の研究が大いに進んだが、ゼブラフィッシュ以外の脊椎動物や非脊椎動物でも、ほぼ同様に使えることが明らかになっている。特に、毒性がなく、個々のコラーゲン繊維の動態をビボで観察できるメリットは大きく、既に、何人かのマウスを研究対象とする研究者と共同でその性質を調べている。また、何故コラーゲンが標識できるかについての、生化学的な証明も既に完成しており、論文投稿準備中である。この技術が広く使われることで、脊椎動物全般のコラーゲン研究が、大いに進むと期待している。 アクチノトリキアの動態が詳細に解ったことにより、今後の研究の方向性が明らかになった。特に、自分では移動できないはずの巨大分子がどうしてヒレ先端に移動しているのか、という疑問が、ヒレの形態形成原理の中核であると予想している。当然、周囲の細胞の移動と関連しているはずと考え、現在、4種類の細胞(表皮、基底上皮、間葉系、骨芽細胞)の、ヒレ先端部における移動のスピード、方向を詳細に測定する実験を始めている。 垂直コラーゲンの発見は、研究開始時には予想していない物であったが、魚類とその他の陸上脊椎動物を分ける進化要因として、極めて重要である。垂直コラーゲンは、ほぼすべての陸上脊椎動物の肢芽に存在しており、おそらく、足を「平板にしない」効果があると考えられる。今後、どのようにしてando遺伝子が生まれたかを探っていくことで、脊椎動物の進化の一端が明らかになると考える。
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今後の研究の推進方策 |
ATの動態 現状では、アクチノトリキアが移動する原理を明らかにすることが最も重要であると考えており、そのために、まず周囲の細胞の動態を、ひれ全体に渡り、調べている。まだ、プレリミナリーな結果であるが、大まかには、外側にある表皮、基底上皮はかなり早いスピードで、常にヒレ先端部に向かって移動しており、その速度はアクチノトリキアよりも早い。一方、内側にある間葉系細胞の移動は、方向は同じであるが、アクチノトリキアよりも遅い。つまり、アクチノトリキアの移動速度は表層の細胞と深層の細胞の中間ということになる。このことから推測すると、アクチノトリキアは、表層の細胞に引きずられて、受動的に先端部に移動することになる。現在、この仮説を様様な実験で検証中である。また、何故細胞が先端部に移動するのかも、重要なポイントである。これに関しては、治癒創傷時に、表皮の細胞が傷のある地点に移動する現象と類似が見られるため、それとの関係も調査したい。 アクチノトリキアが直立する原理と進化との関係 アクチノトリキアが直立する物理的な原因の解明が重要であるが、まず、周囲の細胞とのどのように接触しているかを調べることから始めている。コンフォーカル顕微鏡での観察からは、変異体においては、アクチノトリキアが、基底上皮細胞からは離れた位置に存在していることが解っている。このことから、基底膜との接着性の変化が重要である可能性が浮かんだため、今後、基底膜分子とアクチノトリキアのアフィニティを測定したい。また、ヒレ以外の場所や、両生類のヒレ等、通常ando遺伝子が存在しない領域で、異所性に発現させる実験を行い、コラーゲン繊維の配向性に変化が起きるかどうかも調べる。
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