研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
20H05945
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大澤 志津江 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (80515065)
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研究分担者 |
田尻 怜子 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員 (70462702)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 折り畳み / 一体成型 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
外骨格生物の外部形態は、「折り畳み」とその「展開」による「一体成型」方式で形成されることが、新美班らのカブトムシ角をモデルとした研究により明らかになりつつある。しかしながら、カブトムシにおいて遺伝的操作を行うことは現時点では難しく、それを克服するショウジョウバエモデルの導入が必須である。研究代表者はこれまでに、ショウジョウバエ成虫原基(外部形態を形成する幼虫期の上皮シート)をモデル系とし、折り畳まれた成虫原基が外部形態へと展開する上で、基底膜の分解が重要な役割を果たす可能性を見いだしていた。本年度は、その仕組みを明らかにするために、基底膜の分解をより高感度で検出し得る、器官培養系を用いたライブイメージングの確立を行った。その結果、基底膜の分解は上皮シートを構成する細胞群ではなく、その周囲に存在する細胞集団により引き起こされる可能性を見いだした。この観察事実は、折り畳み構造の展開が細胞非自律的な作用により引き起こされるという新規の仕組みの可能性を示唆している。一方で本研究では、ショウジョウバエ幼虫の外骨格ECM(クチクラ)の折り畳み構造の形成に必要なキチン結合タンパク質Obstructor-E (Obst-E)、および展開に必要な分泌型メタロプロテアーゼSol narae (Sona)に着目している。当該年度はまず、Obst-Eの異なる領域を欠損した変異型タンパク質シリーズを発現させるトランスジェニック系統を作製した。また、野生型個体では折り畳み構造が展開される時期にクチクラ中のObst-Eが減少するのに対し、sona欠損変異体ではObst-Eが残存することを見出した。この結果は、SonaがObst-Eを分解する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ショウジョウバエ成虫原基をモデル系の解析により、上皮シートの折り畳み構造の展開において重要な役割を果たす基底膜の分解が、上皮シートを構成する細胞とは別の細胞集団により引き起こされる可能性を見いだすことに成功した。また、Obst-Eのキチン結合能と互いに集まる性質(集合能)が折り畳みの形成に果たす役割を明らかにするためのツールとして当初計画していた通り、変異型Obst-Eシリーズを発現させる系統を準備できたため。また、折り畳み構造の展開の際にObst-Eタンパク質レベルが減少すること、その減少にsonaが必要であることから、SonaがObst-Eの量的制御を介して折り畳み構造の展開を誘導する、という明確な作業仮説を立てることができた。これらの成果は、「一体成型」方式による形態形成原理を解明していく上で重要な知見であり、研究推進が順調に行われていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ショウジョウバエ成虫原基をモデル系とした研究においては、上皮シートの基底膜分解を引き起こす未知の細胞集団の同定を行うとともに、その役割を遺伝学的手法およびライブイメージングにより詳細に解析する。また、基底膜の分解により上皮シートが展開する力学的仕組みを明らかにするために、力を発生し得るアクトミオシンのパターンを免疫組織化学およびライブイメージングにより観察する。得られたデータをもとに、井上班・秋山班との共同研究により、数理モデルの構築を開始する。また、作製した変異型Obst-Eシリーズ発現系統を用いて、各変異が①Obst-Eのキチン結合能、②Obst-Eのクチクラ中での局在、③クチクラを折り畳む機能、にもたらす変化を解析する。その結果をもとに、Obst-Eのキチン結合能と互いに集まる性質(集合能)が折り畳みの形成に果たす役割を明らかにする。また、SonaがObst-Eを直接分解するか検証するために、本来よりも早いタイミングで人為的にSonaの発現を誘導できる系統を作製し、Obst-Eタンパク質のレベルを野生型と比較する。
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