研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
20H05970
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野村 慎一郎 東北大学, 工学研究科, 准教授 (50372446)
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研究分担者 |
松浦 和則 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (60283389)
村山 恵司 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70779595)
佐藤 佑介 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60830560)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 人工情報伝達分子 / 人工トランスデューサ / 分子サイバネティクス / 分子ロボティクス / 人工細胞 |
研究実績の概要 |
領域が目標に掲げるミクロンサイズの人工脳(ミニマル人工脳)の構築に向け,本課題では,特にセンサと人工細胞膜小胞(リポソーム)間の情報伝達部分を構成する分子デバイスの実現,さらに学習反応のために再利用(リセット)可能な分子デバイス設計を行う.本年は,研究環境の整備を行いつつ,以下3種の情報伝達分子デバイスの設計・構築と評価を行った. 1)人工タイトジャンクション,2)人工レセプター,3)人工トランスデューサ.さらに,4)上記の機構を外部からの光照射によるリセット可能とする分子デザインについて検討した.1)2)について,野村グループは松浦・佐藤と共に人工レセプターと人工ジャンクションの設計を行い,試作した分子デバイスを添加し,人工細胞膜への移行を確認した.松浦グループでは,人工細胞膜上で機能する分子トランスデューサのための膜貫通α-へリックスペプチドの設計・合成に成功した。佐藤グループでは,人工細胞膜上で機能する分子トランスデューサ構築のために,分子デバイスの具体的な設計を進め,核酸バックボーンの疎水化反応の最適化および精製方法を確立した.3)については,1)2)の開発の先にある課題と定め,人工細胞構造として連結型油中液滴を用いる場合を想定して人工レセプターを改良して用いることとした.そして4)光リセットに関連して,村山グループでは,光応答性人工核酸SNAの機能拡張を行い,複数種の二重鎖をそれぞれ別の波長の光で独立に形成・解離させることに成功した。上記に加えて,ペプチド合成拠点(鳥取大)と人工核酸合成拠点(名古屋大)を立ち上げた.研究グループ全体での活動として,上記の進展について論文や学会で報告を行った他,領域発足から7回のミーティングを行い,ロードマップの確認やアイディアの検討,議論を進めた.以上の実績により本領域の研究の基礎を固める成果が得られたものと確信している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究の環境整備・条件整備を行いつつ,3種+1項目の情報伝達分子デバイスの設計・構築と評価を行った. 1)人工タイトジャンクション,2)人工レセプター,3)人工トランスデューサ,加えて4)上記の分子デバイスをリセット可能にする機構,である. 1)と4)について分子デバイスの設計と基礎技術の確立が進んでおり,3)の課題についても検討が順調に進んでいる.特に,松浦グループでは, 2)に関連して,DNA球状集合体表面での非対称な光誘起ペプチド繊維成長により、「負の走光性」を有するDNA球状集合体の構築に成功し報告した。さらに,3)に関連して,村山グループでは,光応答性人工核酸SNAの機能拡張のために、ナフタレンを導入した新たな光架橋性核酸塩基を開発した.これによって,複数種の二重鎖をそれぞれ別の波長の光で独立に形成・解離させることに成功した。これは,研究開始当初の想定よりも可制御性を上げた結果である.そして,領域全体へのサービスとして,ペプチド合成拠点(鳥取大)と人工核酸合成拠点(名古屋大)を立ち上げた.国内の移動制限と機材の納品に係わる時間的制約が厳しかったものの,試験稼働により領域内への独自デザイン分子の供給を実現することができた.コロナ禍による実験制限および,年度末に発生した地震の被害により研究への影響が心配されたが,参画者各位の創意工夫によって本課題に関してはおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,本課題の要素技術として3種+1項目の情報伝達分子デバイスの設計・構築と評価を進め,他班との連携を目指して技術開発を行う.1)人工タイトジャンクション:選択的にリポソーム同士を隣り合わせて結合するための機構については,膜変形への影響と効率を評価する. 2)人工レセプター:リポソームの膜上で外部からの特定の分子信号と結合し,内部に状態変化を伝える機構.DNA版とペプチド版を試作し評価を進める.3)人工トランスデューサ:1)と2)の結果に基づき,連結させたリポソーム間での情報伝達を設計する.その前段階として,2つの連結した油中液滴間での情報伝達機構を評価する. 2)と3)に関連して,A01班との連携による試作品が既に受領済みであり,導入した自動顕微鏡を用いて伝達機構の評価を行う.そして4)として,光リセット機構を有する膜局在型の分子デバイスを設計し,リポソーム膜上での機能評価を行う.他班(C01班,D01班)で研究される学習・運動機構との連携を前提に,外部からの光照射様式を含めた複数のデザインを試作し評価する.研究グループ全体として,オンラインツールを駆使して課題を共有しつつ密な議論を行い,他班とも連携して,研究を滞りなく進める予定である.
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