研究概要 |
本研究の目的の一つは,狩猟採集から農耕への変遷およびそれぞれの生業文化と島嶼環境への相互作用を理解する事である。そのために、研究代表者高宮広土は、奄美・沖縄諸島に所在する中里遺跡,川嶺辻遺跡,勝連城,森川原遺跡等で植物遺体の回収とその分析を実施した。その結果,先史時代には狩猟採集民(世界的には大変まれな現象)、グスク時代には農耕民が存在した事を支持するデータを得た。また、黒住耐二は、一陣長崎鼻遺跡,西原海岸遺跡,具志川島遺跡群において貝類をサンプルし、先史・原史時代における貝類利用および古環境の復元を試みた。特に,黒住による微小貝分析をもとに古環境を復元する手法は,当該地域において唯一古環境を復元できる手段である。その結果,世界の他の島々と比較して,先史時代における人間集団の環境への影響は小さかったことが判明しつつある。新里貴之は当該地域における時間軸を設定するために,考古学では鍵となる土器編年の確立を試みている。また、新里貴之を中心に,琉球列島では著名な遺跡であるフェンサグスク貝塚の発掘調査を実施した。狩猟採集から農耕への変遷を理解するには大変貴重な遺跡である。この発掘調査には,黒住耐二や脊椎動物分析の第一人者で研究協力者の樋泉岳二や高宮広土も参加し,自然遺物の貝集を実施した。マーク・ハドソンは、考古学的には空白地帯である先島(宮古島)の長墓遺跡より出土した自然遺物の分析を実施した。当該遺跡の年代を明らかにするために,炭素十四年代やイノシシのDNA分析等、新たな方法で先島の先史時代を理解しようとしている。 また、琉球列島における環境史および文化史を理解するために将来有望な若手考古学者15人ほど、加えて動物考古学者,当該地域の重要な資源となったサンゴ礁形成を研究する地理学者,海外から当該地域の先史時代を研究する世界的な人類学者らに呼びかけ,大規模な研究会を2度開催した。
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