研究領域 | 環太平洋の環境文明史 |
研究課題/領域番号 |
21101005
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研究機関 | 札幌大学 |
研究代表者 |
高宮 広土 札幌大学, 文化学部, 教授 (40258752)
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研究分担者 |
HUDSON Mark 西九州大学, リハビリテーション学部, 教授 (20284052)
新里 貴之 鹿児島大学, 鹿児島大学埋蔵文化財センター, 助教 (40325759)
黒住 耐二 千葉県立中央博物館, 動物学研究科, 上席研究員 (80250140)
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研究期間 (年度) |
2009-07-23 – 2014-03-31
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キーワード | 環太平洋 / 島嶼環境 / 貝塚 / 動物遺体 / 植物遺体 |
研究概要 |
本プロジェクトでは、21年度~23年度にかけて、フェンサ城貝塚を発掘調査した。この遺跡は、貝塚時代末期からグスク時代にかけての遺跡で、環境文明史を理解するには重要な遺跡である。まず、発掘調査により、発掘調査面積は6x2mと小面積であったが、土器等の多量の人工遺物が出土した。24年度は、まず、これらの遺物の整理と分析に重点を置いた。また、この遺跡では、脊椎動物や貝類も1mmのメッシュで、20cmx20cmでコラムサンプリングを行った。その結果、貝塚時代末期とグスク時代において、食性および海資源利用法に変化があったことが理解された。興味深い成果として、カタツムリの分析から、両時期においては遺跡の周りでは古環境の変遷が認められなかった点である。動物遺体の分析に加えて、フローテーション法により、植物遺体の検出も試みている。植物遺体分析はまだ始まったばかりであるが、グスク時代の層からは、イネやコムギが少量回収されている。最後に、宮古島に所在する長墓遺跡についても、炭素十四年代等の新情報を得る事ができた。 本プロジェクトの目的は、島嶼環境において、ヒト・文化がどのように自然環境に影響を与え、自然環境の変化がどのようにヒト・文化に影響を与えたか、を理解することである。一般的に、ヒトの集団が島嶼環境に適応すると、瞬く間に環境劣化あるいは環境破壊がおこるといわれている。この4年間の調査および研究会を通して理解されつつあることは、琉球列島においてはこのようなデータが存在しないということである。つまり、先史時代の人々はある程度自然と調和していた可能性がある。また、農耕の始まったグスク時代以降にしても、環境への影響は他地域の島々と比較して少ないようである。このことは、世界の島々から提唱された「定説」を覆す可能性を示唆するものである。もし,そうであれば、世界的に大変貴重なデータとなりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトの目的は島嶼環境における環境文明史を復元し、ヒトと島嶼環境の相互作用を理解することである。この目的のために、以下のテーマを検証してきた。1)先史時代には狩猟採集民が存在したか否か、2)狩猟採集から農耕への変遷のタイミングとその要因、3)先史・原史時代における社会組織の変遷の解明。この4年間におけるフェンサ城貝塚での発掘調査、年2回の研究会、および研究代表者、研究分担者、研究連携者、および研究協力者のそれぞれの研究を通して、1)~3)について、計画以上に進展したと思われる。 まず、先史時代の遺跡からは、確実な家畜動物はイヌのみである。また、貝塚前1期から後2期にかけて、那崎原遺跡(9~10世紀)を除き、出土した植物遺体は堅果類等の野生種のみであった。那崎原遺跡遺跡に関しては、栽培植物は確かに検出されているが、栽培植物自体から炭素十四年代測定されておらず、その年代は未だに確定していない。回収された動物および植物遺体からは、先史時代に狩猟採集民が存在したことが確実になりつつある。 次に、農耕のはじまりについてであるが、本プロジェクトではグスク時代初期と考えられる遺跡から土壌をサンプリングし、フローテーションを実施した。その結果、グスク時代初期には確実に農耕が行われていたことが明らかになった。また、これらの遺跡出土の、イネ,オオムギ、コムギ、およびアワを炭素十四年代測定法により年代を測定したところ、ほぼ11~12世紀という結果を得た。すなわち、この頃狩猟採集から農耕への変遷があったのである。 最後に、先史・原史時代における社会組織の変遷についてであるが、グスク時代には首長社会が成立したが、先史時代の社会組織は単なるバンド社会と信じられていた。しかし、遺跡等を検証したところ、先史時代の社会組織は単なるバンドのみでははく、バンドより複雑な社会が進化したことが理解された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、本プロジェクトの最終年度であり、大きな計画が3本ある。まず、本プロジェクトが3次にわたり発掘調査を実施したフェンサ城貝塚出土の人工遺物および自然遺物を整理・分析し、発掘調査報告書を刊行することである。その内容は、1)遺跡の立地および環境、2)人工遺物(石器、土器、その他)、3)脊椎動物分析、4)貝類分析、および5)植物遺体分析である。また、研究協力者による花粉分析や年代に関する内容も考察している。 本プロジェクトでは若手を中心に、年2回研究発表会を開催してきた。地理的には北は種子島から南は八重山諸島、時間的には旧石器時代からグスク時代までカバーした。考古学的な発表に加え、形質人類学、花粉分析、DNA分析、およびデンプン粒分析等の発表もあった。さらに、国際的という意味で、沖縄で初めて海外の島嶼先史研究者を招聘し、発表してもらった。今年度の計画の第2本目は、これらの発表をまとめ、論文集を刊行することである。最新の情報を若い研究者を中心にまとめるので、この論文集は、琉球列島先史・原史時代における環境と文化の変遷に関して、大変大きなインパクトのある論文集になると確信している。 この4年間の本プロジェクトの大きな成果の一つは、農耕の始まりに関して炭素十四年代法により、その年代が11~12世紀であったことが明らかになったことである。しかしながら、琉球列島においては、未だに炭素十四年代測定値の絶対数が十分ではない。より正確な時間軸を確立するために、第3番目の計画として、重要な遺跡出土の有機物(可能であれば一年生の種子等)の炭素十四運年代測定を実施する。
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