研究領域 | 量子サイバネティクス - 量子制御の融合的研究と量子計算への展開 |
研究課題/領域番号 |
21102003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
都倉 康弘 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20393788)
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研究分担者 |
樽茶 清悟 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (40302799)
太田 剛 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 主任研究員 (30463623)
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キーワード | 半導体物性 / 半導体超微細化 / ナノデバイス / 量子コンピュータ / 量子閉じ込め |
研究概要 |
[制御1] スピン回転の高速化に適した微小磁石の設計を行い、c.w.電子スピン共鳴法により従来の5-10倍の高速化が可能であることを確認した。また不均一磁場を用いたz軸周りのスピン回転を提案し、20MHzの回転を達成した。多ビット化に使用する為の3重量子ドット、4重量子ドットを作製し、前者では理想的な(1,1,1)電子状態、後者では世界初の4重量子ドットの電子状態制御に成功した。 [制御2]InAs量子ドットにおいて、スピン軌道相互作用の強さ及びg-因子テンソルをゲートに依り制御可能である事を示した。二重量子ドットのパウリスピン閉塞条件で核スピンポンプを定量的に議論する枠組みを構築した。 [伝送1]電子の位相情報の消失のメカニズムを探る為三端子AB干渉計の伝導特性を調べた。また前回量子ドットネットワークにより理論提案したスピンフィルターを、単一干渉計で実現する方法を提案した。 [伝送2]量子ドット間の単一電子移送を統計的に評価し、約90%の確率で単一電子移送に成功していることを確認した。また、移送中の電子スピンのコヒーレンスが保たれていることを確認するために、スピン一重項状態の2電子を1電子ずつ移送する実験に取りかかった。 [観測] 半導体量子ビットにおいて電荷ノイズはデコヒーレンス要因の一つである。ウェハの構造やプロセス方法を変えて量子ポイントコンタクト(QPC)を作製し、QPC電流に現れる電荷ノイズを評価した。ゲート電圧が-0.5Vより深い領域で指数関数的に増加するノイズは、ゲートからトラップサイトへのホッピングに起因している。今回そのようなノイズ特性はウェハ固有の問題ではなく、デバイス作製プロセスに起因することを明らかにした。またウェハに超格子構造を入れると、プロセス起因によるノイズの増加を抑えることができることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[制御1] (2)おおむね順調に進展している。:電力不足のため実験が長期間休止したが、スピン回転の高速化、表面コード対応の浮遊ゲート技術の目処が立った。 [制御2](2)おおむね順調に進展している。:核スピンのダイナミクスと量子ドット系を伝導する電子(スピン)のダイナミクスの特徴的な時間スケールの違いをうまく利用して、有効な核スピンの微分方程式を導出した。これを用いてこれまで得られた実験を解析すると共に、核スピン揺らぎを抑制する方法も議論できると考えている。またスピン軌道相互作用の大きなInAs系でゲート電極により様々なスピンを制御するパラメタを変調できる事が分かり、スピンの高速制御の見通しが得られた。 [伝送1](2)おおむね順調に進展している。:ナノデバイスを伝播する電子の位相コヒーレンスが如何に失われて行くかに着目して電圧端子の効果の議論を開始した。アハラノフボーム干渉のビジビリティの変化だけでなく、電流の統計性にまで拡張を進める目処が立った。また飛行量子ビットの初期化と検出を可能にするスピンフィルターの提案をする事ができた。 [伝送2](2)おおむね順調に進展している。:単一電子移送が高効率であることが確認できた。スピンコヒーレンスの検証に時間がかかることは予想通りである。 [観測](2)おおむね順調に進展している:今年度は震災による節電施策により、希釈冷凍機を用いた電気伝導測定を行うことができなかったが、デバイスの電荷ノイズに関する重要な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
[制御1] スピン回転の高速化ではデフェージングが問題にならない50MHx以上を目指す。3ビット化に向けて3重量子ドットのスピン状態制御の実験を行う。 [制御2]環境と結合した量子ビットがその位相コヒーレンスを失うプロセスを詳細に検討する。特に量子ドット電荷計を用いた測定による反作用を調べる。また位相コヒーレンスが条件により一部だけ失われる様な場合に関しても検討を進める。核スピンの偏極メカニズムとその制御に関しても引き続き検討を進める。 [伝送1]スピン軌道相互作用による伝導電子スピンの制御の可能性を検討する。 [伝送2]移送される電子のスピンのコヒーレンスを確認する実験を継続する。現在進めている方法で難航する可能性もあるので、他の方法も試みる。 [観測]半導体二重量子ドットの電荷量子状態の制御を進め、高周波容量測定によりエネルギー反交差の測定を行う。特に印可パルス波形を変化させながら電荷コヒーレント振動を調べ、数値計算による解析と比較して議論を進める。
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