研究領域 | 量子サイバネティクス - 量子制御の融合的研究と量子計算への展開 |
研究課題/領域番号 |
21102004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北川 勝浩 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20252629)
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研究分担者 |
工位 武治 大阪市立大学, 理学研究科, 特任教授 (10117955)
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キーワード | 共振器 / パルス補償 / スピン増幅 / 動的デカップリング / 磁気共鳴 / 電子スピン / 核スピン / 分子スピン |
研究概要 |
1.パルス補償によって共振器内に精密に実現可能なパルス波形を用いることによるデカップリングパルス系列の性能向上を、いくつかの例について数値的に調べ、有効性を見いだした。 2.前年度に実現した高利得の広義のスピン増幅実験について、理論的考察を補強して、論文として出版した。さらに、狭義のスピン増幅を実現するための分子を設計し、それに至る中間的な分子として、13Cラベルp-テルフェニルと19Fラベルp-テルフェニルの合成を行った。 3.動的デカップリングパルス系列を数値的に生成する方法を考案した。 4.極低温下で電子スピン(10の21乗個)のアンサンブルと誘電体共振器の比較的大きな結合(66MHz)に基づく非線形光学効果によりマイクロ波の4光波混合を観測した。 5.分子スピン混合系の物質開発では、Lloydモデルの電子スピン版のプロトタイプ(遷移金属カチオンを内包する高スピンゲスト3重螺旋構造体)の拡張の合成法を探索した。一方、電子スピン・核スピンを担持するスピンサイトを周期的に配置できる、二重螺旋構造体のオリゴマーを、強固な相補的な水素結合で作りあげるDNA模倣型の分子設計を考案し、パルス電子-電子スピン共鳴法によってスピン物性を解明した。量子ビットとして利用可能な分子内の核スピンを増加させる分子設計として、π共役系を拡張した新しい安定有機ラジカル系を設計し、ここではデコヒーレンスを抑制するための分子サイズの大きな置換基をスピンサイトに導入した。分子スピン系の電子スピンを量子ビットとして活用し、パルス電子スピンニューテション法を用いてCNOTゲート操作の確立を実証した。これは分子系電子スピンを用いた実現した最初のCNOTゲート実験である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パルス補償の有効性を例示することができた。狭義のスピン増幅に向けた分子合成の中間目標が達成された。動的デカップリングの手法開発が進んだ。極低温電子スピンアンサンブルと共振器の結合による非線形光学効果が確認できた。窒素核スピンを量子ビットとして扱える技術の開発では高出力に耐えるデバイス製作に技術的課題を残したが、分子スピン量子ビットとして活用できる新規分子の開発では大きな進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、共振器パルス補償によるハミルトニアンエンジニアリングの有効性のより一般的な実証、狭義のスピン増幅の実現、動的デカップリングによるデコヒーレンス抑圧手法の開発と共振器パルス補償との融合、極低温電子スピンアンサンブルによる非線形光学実験を推進する。それと並行して、領域横断的な共同研究によってスピンを用いた量子制御の研究を推進する。電子スピンと核スピンの両量子ビットの位相制御を、技術的に等価に扱うスピン技術を完成させるための装置開発を引き続き行い、水素核に加えて窒素核スピンを操作できるためにラジオ波照射の高出力化デバイスを改良する。
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