本研究では平面型のプレーナートラップの開発および高速断熱通過法を用いた量子状態制御の研究を進めている。プレーナートラップについては、小型でかつ深いトラップポテンシャルを形成するプレーナートラップを開発した。新しいトラップは集積化に向けてより適した形状になるよう、小型化、電極間に設けていたスリットの排除、電極表面や端面の精度を上げるため作製方法の変更を行った。さらにプレーナートラップの難点である従来型より浅いポテンシャルについても、シミュレーションで電極配置の最適化を行った結果、従来の設計に比べ6倍ほど深いポテンシャルを形成できることがわかった。このトラップを作製・実装してカルシウムイオンを捕獲することに成功し、イオンの永年周波数の測定、DC電圧印加によるイオンの移動量の測定、水平方向の2軸についてのRF-光子相関を用いたマイクロモーション補正を行った。 高速断熱通過法を用いると、ラビパルスを用いた方法に比べて、レーザーのパルス幅や強度など実験パラメーターの変動に強いロバストな量子状態制御が可能になる。今年度は2個のCaイオンを用いてDicke状態の生成実験を行った。まず、2個のイオンの重心運動振動モードを振動基底状態まで冷却し、その後、個別にレーザーをアドレスした1個のイオンのブルーサイドバンドを励起することにより一個のフォノンを振動状態に生成する。この二つのイオンに等振幅のレッドサイドバンドの高速断熱通過レーザーパルスを照射することでDicke状態を生成することができる。生成された量子状態はラムゼイ干渉法によりパリティ信号を求めることで解析される。実験によると、通常の周期の2倍の周期のラムゼイ干渉信号が観測され、2個のイオンのDicke状態が生成されていることが確認された。
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