本研究では平面型のプレーナーイオントラップの開発及び断熱的な手法を用いたイオンの量子状態制御の研究を進めている。開放型のプレーナーイオントラップでイオンの冷却において問題となる、電極基板に垂直方向の余剰マイクロ運動の検出と低減の手法を確立した。既存の技術であるrf-光子相関法では照射するレーザービーム方向のマイクロ運動しか検出できないため、プレーナートラップでは電極基板に垂直方向の成分検出には適用できなかった。我々はトラップポテンシャルを変調しパラメトリック共鳴を利用することにより、レーザー照射方向に制限されずにマイクロ運動を検出する方法を考案し、リニアトラップを用いて華光子相関法との比較を行い、パラメトリック共鳴の信号が余剰マイクロ運動の大きさを反映していること、感度はrf-光子相関法よりも良いことを示した。この手法をプレーナートラップに適用し、垂直方向のマイクロ運動を最小化することに成功した。 断熱的な手法による量子状態制御の実験において、エンタングル状態であるディッケ状態の生成実験を行い、パラメターの変化に対するロバスト性を初めて明示的に立証した。これまで原子のエンタングル状態生成において用いられてきた手法は、パルス幅や強度などのパラメターに敏感に依存するものであったが、断熱的手法においてはロバスト性が期待される。2個のイオンのディッケ状態生成に用いる光パルスの幅を110μ秒から460μ秒まで変えた実験、また最大ラビ周波数を5kHzから10kHzまで変えた実験のいずれにおいても、フィデリティの変化は10%以内にとどまり、また常に分離不可能条件が常に満たされイオンがエンタングルしていたことが確かめられた。また、原子系の暗状態を用いることにより、幾何学的位相のみによるロバストな量子計算(ホロノミック量子計算)を実現できる可能性がある。これの基礎となる幾何学的位相のみによる単一量子ビット演算を、40Ca+の内部準位を用いてトライポッド系と呼ばれる4準位系に対し誘導ラマン断熱通過法を適用することにより実演した。ブロッホ球上のX軸、Z軸周りの回転による占有数の振動を90%以上の可視度で観測することに成功した。
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