研究領域 | 量子サイバネティクス - 量子制御の融合的研究と量子計算への展開 |
研究課題/領域番号 |
21102006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
占部 伸二 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20304040)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | イオントラップ / 量子情報 / 量子エレクトロニクス / レーザー冷却 |
研究実績の概要 |
本研究では、プレーナートラップの開発とロバストな量子ゲートの研究を中心に実施している。プレーナートラップの開発では、イオンの生成領域と実験・観測領域との間の輸送の高速化に成功した。また新たな量子ゲートとして不均一磁場を用いる方法の検討を行った。トラップ実験領域で100T/m以上の高磁場勾配を得るために、プレーナートラップ電極と複数の微小永久磁石を組み合わせる方法を考案し、微小永久磁石の最適な配置をシミュレーションによって決定した。さらにこれらの磁石をプレーナートラップに組み込むための電極の設計と実装を行った。トラップと光ナノファイバーとの結合については、問題となると予想されるファイバーの帯電状況を調べるために予備実験を行った。従来型リニアトラップに粒径の揃った微粒子を捕獲し、微粒子を光ナノファイバーに接近させることによってファイバーの帯電の状況が観測できることを示した。さらに粒子の位置測定の精度向上などによって、より正確な帯電量の計測ができると考えられる。 ロバストなエンタングルメント生成方法の提案、実演の成果として、サイドバンド遷移を用いた多準位STIRAP(誘導ラマン断熱通過)により、4イオンのディッケ状態の生成に成功した。具体的には、イオンのレッドサイドバンドおよびブルーサイドバンドに共鳴した二色光を用い、それらの二色光の強度を独立に変調することにより、ディッケ状態の生成を行った。この方法は個々のイオンへのアクセスを必要とせず、また強度変調の詳細によらないというロバスト性も備える。ウィットネス演算子により生成された状態の評価を行い、4粒子のエンタングルメントが確かに生成されていることを確認した。また、大域的な測定の結果のみからディッケ状態のフィデリティの上限および下限を定める不等式を導出し、生成されたフィデリティは0.84以上0.88以下であることを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速断熱通過などの断熱過程を用いたロバストな量子ゲートの研究については、今年度、独自に振動準位を仲介にした誘導ラマン断熱通過を用いる手法を考案し、これまでイオントラップでは実現されていない4個のイオンの半数励起のDicke状態を発生することに成功した。この方法は多数個のDicke状態の生成にも拡張可能であると期待される。これにより当初の目標は十分に達成されつつあると考えられる。一方、プレーナートラップの開発については、イオントラップ系を構成し、トラップ間のイオンの輸送の高速化に成功している。今年度、プレーナートラップの開放型である特徴を生かし、小型の磁石を用いてトラップ近傍で大きな磁場勾配を発生させる方法を新たに考案した。これを用いたイオン間の相互作用の発生の実験を開始しており、現在、捕獲実験を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
断熱過程を用いたロバストなゲート開発については、制御レーザーの線幅などの特性をさらに改善し、コヒーレンス時間を向上させることにより、25年度に成功した誘導ラマン断熱通過を用いた方法により、6個以上の多数個の量子もつれ状態の発生を目指す。プレーナートラップの開発については、高磁場勾配下でのイオンの捕獲を行うとともに、量子ゲート構成に必要なイオンのスピン間の相互作用発生とその計測を行い、この方式の検証を行う。
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