本研究においては、開放型のプレーナートラップとロバストな量子状態制御の研究などを進めている。プレーナートラップの研究においては、rfを用いた量子ゲート操作を目的として、多領域から成る電極に複数の微小永久磁石を組み込み、磁場勾配の評価を行った。このトラップにカルシウムイオンを捕獲し、さらにイオンの位置を変化させて、電気四重極遷移のゼーマン分裂から各点での磁場の値を測定した。約30T/mの磁場勾配が得られ、これまでのトラップ内の磁場勾配としては最も大きな値が得られていることが分かった。さらに大きな磁場勾配も期待でき、量子ゲート操作が可能となった。トラップと光ナノファイバーとの結合に関する研究では、電極を分割型にして粒径1μmの微粒子を捕獲し、微粒子を光ナノファイバーに接近させることによってファイバーの帯電量を測定した。 量子状態制御のための多粒子エンタングル状態の生成においては、量子ビット遷移励起用のレーザーのコヒーレンス時間を向上させ、忠実度を上げることに成功した。超低膨張率のガラス素材を用いた光共振器に周波数を安定化したレーザーを用いて、単一カルシウムイオンへの照射によるラムゼイ干渉実験を複数のゼーマン成分に対して行ったところ、線幅の大部分は磁場によって決定されており、レーザー自体の寄与は1Hzのオーダーであることが分かった。この光源を用いて2個のイオンのエンタングル状態の生成を行い、0.97という忠実度を得た。この忠実度は、6個以上の多数のエンタングル状態の生成を目指すうえでの重要な指標であり、十分に高い値である。また、新たな量子状態制御の研究として、正三角形に配置した3個のイオンの回転運動を基底状態まで冷却して量子回転子を実現した。この系を用いてトンネル効果によるアハラノフ・ボーム効果を実証した。
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