研究領域 | 量子サイバネティクス - 量子制御の融合的研究と量子計算への展開 |
研究課題/領域番号 |
21102007
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
竹内 繁樹 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (80321959)
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研究期間 (年度) |
2009-07-23 – 2014-03-31
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キーワード | 量子サイバネティクス / 量子情報 / 光子 / 制御 / 量子回路 / フィードバック |
研究概要 |
本研究では、量子サイバネティクスの概念に基づき、光子を用いた量子制御テストベッドを構築する。具体的には、「フィードバック制御」を利用した量子状態の制御や推定の、光子量子回路などによる実現を目指すとともに、学際融合を目ざし、ナノフォトニクス技術を利用した光子と異種量子ビットを結合と制御について研究を推進する。 平成24年度は、引き続き公募研究グループの大阪大学藤原彰夫教授と共同で、アダプティブな制御により光子の量子状態を効率的に測定する新しい方法の実証実験に取り組んだ。その結果、純粋状態の光子の直線偏光の角度推定に関して、強一致ならびに漸近有効性の確認に成功(Physical Review Letters 2012)、さらに混合状態の光子への適用も行った。 また、光子量子回路に関し、量子フィードバックの比較部で用いる量子フレッドキンゲートの設計構築に取り組んだ。今年度は、特に光子源に関して、2光子量子干渉の明瞭度の劣化要因を理論的に解析、それを元に、世界最高値の96%の明瞭度を実現した(Optics Express 2012)。 また、異種量子間状態制御の実現に関しては、ダイヤモンド中の窒素欠陥中心(NVC)とテーパ光ファイバ を結合させたハイブリッド単一光子源の実現に成功(Optics Express 2012)、また微小球共振器とテーパ光ファイバの極低温下での結合実験にも成功した(Optics Express 2012)。また、期間延長の計画において、磁場下での実験も可能な極低温クライオスタットシステムを設計、選定し購入した。また新たな方向性として、トラップされたイオンとナノ光ファイバの結合について、計画班の占部グループと検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度までに、KLM 制御ノット操作光量子回路の実現(PNAS)や、直径300nmのテーパ光ファイバへの単一量子ドットの結合、ならびに、量子ドットから放出される光子の単一モード光ファイバへの高効率結合の実現(Nano Lett.)などの成果を得てきた。 それらに加え、今年度新たに検証実験に成功したアダプティブな制御により光子の量子状態を効率的に測定する新しい方法は、光子数が限られた状況で、もっともよくその偏光の状態を推定でき、量子情報科学だけでなく、生体計測など様々な分野への波及が期待できる成果として、Physical Review Letters に掲載された。また、この方法に関しては、さらいに混合状態の光子への適用も行うことができた。 また、光子量子回路に関しては、パラメトリック下方変換を用いた伝令付き単一光子源として、96%という世界最高値の明瞭度をもつ光子源を実現、Optics Expressに掲載された。これは、現在構築中のフレッドキンゲートのエラー低減に重要なだけでなく、量子暗号の長距離化に不可欠な量子中継器の実現や、光量子シミュレーションなど、光量子情報分野に幅広くインパクトを与える成果である。 さらに、異種量子間状態制御の実現に関しても、ダイヤモンドのナノ結晶中の(NVC)とテーパ光ファイバ を結合させたハイブリッド単一光子源を実現、Optics Expressに掲載された。この報告に於いて、単一モードファイバに結合された光子数として、既報中最大値を達成した。さらに、新たな方向性として、トラップされたイオンとナノ光ファイバの結合について、計画班の占部グループと検討を開始することもできた。 これら現在までに達成した成果は、米国アカデミー紀要(PNAS)、Physical Review Letters, Nano Letters、ならびにOptics Express 8報他に論文として発表することができた。これらの事から、当初の計画以上の成果が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
「量子サイバネティクスの概念に基づく、光子を用いた量子制御テストベッドの構築」という研究目的の観点から、平成25年度も引き続き、「フィードバック制御を利用した量子状態の推定」、「量子フィードバックの実現に向けた光子量子回路の実現」、「異種量子間状態制御の実現に向けた、ナノフォトニクス技術を利用した光子と異種量子ビットを結合と制御」について研究を推進する。 具体的には、まず「フィードバック制御を利用した量子状態の推定」に関しては、推定するパラメータ数を、実現した「1」から「3」に増やすことを目指す。これにより、任意の偏光状態の光子量子ビットの推定が可能になる。共同研究者の藤原・山形らにより、従来の量子トモグラフィーより高い効率で推定が可能であることが示唆されており、その検証を目指す。 次に「量子フィードバックの実現に向けた光子量子回路の実現」に関しては、実現した高い明瞭度をもつ単一光子源などを活用し、4光子での量子フレッドキンゲート操作光量子回路の実現を目指す。既に光学部品は選定、購入し、平成24年中に、実験系の構築をほぼ終えることができている。 最後に、「ナノフォトニクス技術を利用した光子と異種量子ビットを結合と制御」に関しては、引き続きNV中心と光子の結合に関する研究を行う。NV中心に関し、平成24年度に、我々は単一NV中心の極低温下スペクトルに占める、フォノンサイドバンドを抑制する方法を発見した(Optics Express 2012)。この方法を発展させ、NV中心のコヒーレンスに関する情報の取得を目指す。また、トラップされたイオンとナノ光ファイバの結合についても、引き続き研究を進める。
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