複数の粒子が量子力学的に強く相関した量子もつれ状態は、粒子の数が3つ、4つと多くなるにつれて、定性的にも異なる多種多様なもつれ合いのパターンが可能になっていく。その中のひとつ、クラスター状態は、量子計算の実行を容易にするリソースとして着目されている。4光子のクラスター状態を発生し、計算の基本となる量子ゲート操作を行い、その入出力特性を量子プロセストモグラフィによって評価することで、高い忠実度で操作が行われていることを実証した。 W状態と呼ばれる別のパターンの量子もつれ状態では、各粒子が他の全ての粒子と等しく相関を持つため、あらゆる粒子対の組み合わせが互いに手を繋いでいる網の目のような構造を持つ。このような状態に粒子を追加してW状態を拡張するには、既存の全ての粒子との相互作用が必要に思えるが、量子力学の性質をうまく使うと、たった一個の既存の粒子と相互作用させるだけで、拡張が可能になる。独自に提案した光子のW状態の拡張法の検証実験を行い、拡張の成功を示す結果を得た。 量子力学の性質を通信に広く応用するためには、離れた2地点に置かれた量子メモリの間に、光を媒介として量子もつれを作ることが重要である。この際、距離に応じて光ファイバの損失が増加するため、その影響をなるべく避けて生成効率と忠実度を高める工夫が重ねられている。本年度は、1個の2準位系からなる量子メモリと、コヒーレント光とを非共鳴に相互作用させる場合に、損失に起因する原理的な限界を明らかにし、さらに、その理論限界に達する生成法の提案を行った。
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