研究領域 | 量子サイバネティクス - 量子制御の融合的研究と量子計算への展開 |
研究課題/領域番号 |
21102008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小芦 雅斗 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90322099)
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研究分担者 |
山本 俊 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10403130)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 量子もつれ / 量子テレポーテーション / 量子インターフェース / 波長変換 / 差周波発生 |
研究実績の概要 |
雑音耐性のある量子もつれ配送プロトコルの一つとしてデコヒーレンスフリー部分空間 (DFS)を用いた方法の研究を行った。この方法では量子もつれ光子対の一方をDFS上の状態へ符号化することで通信路の雑音に耐性を持たせるだけでなく、送受信者で用いる干渉系の安定化が受動的に行われるようになっている。光パラメトリック下方変換によって発生させた量子もつれ光子対と補助光子を用いてDFS上に符号化し、雑音のある通信路で送信した。更に、この量子もつれ光子対を用いて、別に用意した量子もつれ光子対の一方を量子テレポーテーションによって送信し、送信後の量子もつれ光子対の忠実度0.66を得た。 長距離量子通信には、光ファイバ損失の小さい近赤外領域の通信波長帯の使用が望ましい。一方で、高度な量子情報処理に不可欠な物質系の量子メモリは結合しやすい光の波長をもち、多くの場合にそれは可視光領域にある。そこで、可視光波長の光と通信波長帯の光の間で量子性を保持したまま切り替えを行う量子インターフェースが重要となる。前年までに、光非線形結晶における差周波発生を用いて可視光から通信波長帯へ下方変換を行い、古典限界を超える忠実度0.75を得たが、本年度は、忠実度低下の主原因であるラマン散乱光の影響を極力抑える条件を検討しつつ、低雑音の光子検出器を使用することで、非常に高い忠実度(0.93)を実現した。 量子メモリと光を組み合わせる具体的な手法として、量子メモリの光線形応答の微小変化を利用して、遠い2地点の量子メモリに対して非破壊のパリティ測定を行う手法の理論提案を行った。この測定手法は、測定結果を量子メモリにフィードすることで、量子もつれ生成、量子もつれの接続、量子もつれ蒸留などの多彩なプロトコルに使用可能であり、量子情報通信の様々な場面で使用可能な基本ツールになると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光本来の役割である通信における量子制御として、量子もつれ状態を積極的に利用して雑音から量子状態を保護する手法の開発を進めてきたが、今年度は、非自明な量子通信プロトコルである量子もつれスワッピング(量子もつれの量子テレポーテーション)の中にその雑音保護手法を組み込むことに成功した。これにより、提案する手法の有用性を、単なる原理実証実験を超えて示すことができたと考えている。 物質系との連携という視点では、問題となる波長のミスマッチングを解決する量子インターフェースの完成度を格段に向上することができた。また、遠隔量子制御の基本的な手法として、将来有望な汎用性の高い方法の理論提案を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、我々の量子インターフェースの汎用性を示すために、様々な干渉実験を通じて、基本的な性能を詳しく評価していく。また、実際に原子系との結合を目指していく。DFSを用いた雑音保護については、より広範囲の雑音に対応できる手法への拡張を目指す。
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