研究領域 | 原子が切り拓く極限量子の世界ー素粒子的宇宙像の確立を目指してー |
研究課題/領域番号 |
21104002
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
笹尾 登 岡山大学, 極限量子研究コア, 教授 (10115850)
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研究分担者 |
中野 逸夫 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (90133024)
吉村 太彦 岡山大学, 理学部, 教授 (70108447)
福見 敦 川崎医療短期大学, 放射線技術科, 講師 (40426656)
若林 知成 近畿大学, 理工学部, 准教授 (30273428)
田中 実 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70273729)
桂川 眞幸 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (10251711)
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キーワード | ニュートリノ質量 / マヨラナ粒子 / マクロコヒーランス / 超放射 |
研究概要 |
1.二光子対超放射過程は「マクロコヒーラント増幅機構」を実験的に検証する最も適した現象である。この二光子対超放射過程を観測するのに、パラ水素分子の振動励起準位を用いるが、理論研究の成果により、標的密度や長さ、初期コヒーランス等が重大な役割を果たすことが判明している。本年度に於いては、パラ水素固体を用いた振動準位(v=2)のコヒーランス測定した。その結果、緩和時間は十分長い(T2>10ns)ことを証明した。現実の二光子対超放射実験は、ガス標的と固体標的の両者の長所短所を比較し一方を選択する。 2. 二光子対超放射及びニュートリノ対放射の理論を発展させた。特に、二光子対超放射の基礎となる方程式を導出した。またシュミレーション法を使い、二光子対超放射が爆発的に起こりうることを示した。またそのための条件(標的密度や初期コヒーランス等)を明確にした。この結果パラ水素が二光子対超放射の標的に適しており、特に振動励起準位が初期状態として優れていることを明らかにした。 3.バリウム原子における二光子対超超放射の基礎研究 バリウム原子の準安定励起状態(5d6s[D])は二光子対超放射過程を発見するのに適した状態である。準安定状態を制御する過程としてレーザー照射による中間状態(6s6p[P])の生成および中間状態からの超放射過程を採用している。本年度は準安定状態と基底状態のコヒーランスを測定した。その結果コヒーランスは10E-4以下となり小さいことが判明した。 4.その他の実験成果:ビスマスはニュートリノ放射過程に適した準安定状態(2D{5/2})を有し、かつ固体環境中に埋め込むのに適した原子である。そこでネオンマトリックス中でのビスマスの振る舞いを研究した。またパラ水素固体中でのHF分子拡散に関し実験を行い、固体水素では量子トンネル効果が主要な過程の1つであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度当初の目標は以下の通りである。 1)パラ水素マトリックスまたは同マトリックスに埋め込まれたフッ化水素について、準位の決定やコヒーランス時間の測定等基礎研究を進展させる。2)バリウム二光子対超放射過程観測を目指す実験を実行する。3)マトリックス中にゼノンやビスマス等を導入し、本研究にとり重要な準位やその寿命についてマトリックスシフトを測定する。4)理論面においては、二光子対超放射の理論を進展深化させ、実験に即したシュミレーションを行う。5)その他イオン標的の生成や窒素内包フラーレンの基礎研究を続行する。 本年度研究業績概要にも記載したとおり、ほぼ上記した目標に対応した成果が得られた。具体的には、1)パラ水素固体を用いた振動準位(v=2)のコヒーランス測定を実行し、v=1振動励起準位とほぼ同等の緩和時間(T2>10ns)であることを実験的に証明した。2)バリウム原子における二光子対超超放射の基礎研究、特に準安定状態と基底状態のコヒーランスを測定した。3) ネオンマトリックス中でのビスマスの振る舞いを研究した。4)二光子対超放射のダイナミクスに関し、爆発現象の存在やその条件(標的密度や長さ、初期コヒーランス等)をシュミレーションで明確にした。5)パラ水素固体中でのHF分子拡散に関する実験を行い結果を解析した。以上より概ね目標を到達したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた成果を踏まえて次の様な具体的な方針で研究を進展させる。 1) 二光子対超放射の発見に向け、新たに極低温水素ガス標的を作成する。またコヒーランスの高い高性能レーザーシステム(断熱ラマン過程ポンプレーザー及びトリガー用レーザー)を構築する。パラ水素固体のコヒーランス時間測定実験の成果に基づき、二光子対超放射の前駆的現象の発見に努める。2) バリウム原子標的よりの二光子対超放射過程観測を目指す実験を実行する。特に昨年度観測された信号について、追加の確認実験を行いその性質を解明する。また対超放射の実現条件に近づけるため、標的密度の増大させる、標的長を伸ばす、標的のコヒーランスを高める等の措置を講ずる。また超放射理論を適用し、バリウム準安定状態のコヒーランス測定結果を再現する。3)ビスマス導入マトリックスの吸収分光を進め、発見されたピークの同定、準位・線幅の確定等を行う。4)二光子対超放射及びニュートリノ対放射の理論を進展深化させる。特に、二光子対超放射過程のダイナミックスを理論及び数値シュミレーション法を用いて更に明確にする。またニュートリノ質量分光にむけてソリトン形成のダイナミクスを理解し、ソリトンを利用したニュートリノ観測の戦略を明確化する。原子を利用したニュートリノ質量分光に測定が可能になると予想される、ニュートリノ絶対質量、階層性、マヨラナーディラック識別、マヨラナCP非保存位相などの物理量につい理論解析を深化させる。ニュートリノ物理の進展による宇宙論、特に物質優勢宇宙生成理論に対するインパクトを明確にする。
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