研究領域 | 原子が切り拓く極限量子の世界ー素粒子的宇宙像の確立を目指してー |
研究課題/領域番号 |
21104004
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
旭 耕一郎 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (80114354)
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研究分担者 |
福山 武志 立命館大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40167622)
松尾 由賀利 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (50231593)
上野 秀樹 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (50281118)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 原子核構造 / 原子EDM / シッフモーメント / CP対称性 |
研究実績の概要 |
宇宙で観測される物質/反物質非対称性は現在の素粒子標準理論では説明できず、その枠組みを超える物理の存在が強く示唆される。その鍵であるCP対称性の破れの起源を見分ける重要な観測量として、永久電気双極子モーメント(EDM)が注目される。本研究では、超低磁場での発振が可能な新しいタイプのスピンメーザーである光検出・外部フィードバック型核スピンメーザーを、129Xe原子のEDMに適用する。 前年度までの研究で、ある限られた測定時間内での平均周波数決定精度としては約10 nHzを達成したが、一方で長期的な磁場変動によって大きな周波数不定性が生じていることが明らかになった。平成24年度はこの長期的な磁場変動をモニター・補正するための3Heガスを用いた共存磁力計の開発を行った。3He共存磁力計の性能を引き出すために、ガス封入に使用するガラス素材の選定や、129Xe・3Heガスの分圧値の最適化を行った。その結果、光学的スピン歳差検出法を用いた129Xeと3Heの同時核スピンメーザー発振、すなわち共存磁力計の実現に初めて成功した。 一方で、3He共存磁力計では補正することができない偏極Rb原子との衝突シフトの変動が存在することも明らかになった。そこで、この効果を抑制するために、ガス封入セルを偏極生成部分と歳差運動検出部の二つに分けたダブルセルの開発も行い、ダブルセルに対して3He共存磁力計の導入を行った。 EDM測定のためには電場印加も必須であるため、電場印加システムの開発を行い、電極付きのガス封入セルで現在5 kV/cmの電場印加に成功している。 以上の開発を組み合わせることで、電極付きダブルセルを用いて、電場印加した状態で129Xeのメーザー発振および3Heの自由歳差運動を同時測定し、共存磁力計を用いた初のEDM測定データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精度のEDM探索において必須な高感度磁場測定について、光検出法による3He共存磁力計を初めて実現し、長期的な磁場変動を補正する手段を確立した。また、3He共存磁力計を用いたEDM測定の初データを取得することができ、最終年度での本格的な測定に向けた準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の開発研究の柱は3He共存磁力計の性能向上、測定における系統誤差の軽減である。これらの開発に基づき最終的なセットアップを構築し、本格的なEDM測定を行う。まず3Heメーザー発振の実現のために、共存磁力計の性能向上を行う必要がある。129Xe・3Heの偏極度やスピン緩和時間はセル内のスピン緩和防止のためのコーティングの出来や、電極印加のための接着剤の付着具合などの不確定要素に大きく左右されるため、大量に測定セルを制作し、その中で最高の性能を発揮するものの選定を行う。また、セル内のRb密度変動による周波数変動を抑制するために、温度制御測定の開発も行う。これらの開発により、10-28 ecmの領域を目指した129XeのEDM測定実験を行う。
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