研究領域 | 原子が切り拓く極限量子の世界ー素粒子的宇宙像の確立を目指してー |
研究課題/領域番号 |
21104006
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 和彦 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10335193)
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研究分担者 |
田中 歌子 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (20359087)
盛永 篤郎 東京理科大学, 理工学部, 教授 (90246687)
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キーワード | 物理定数 / 量子エレクトロニクス / 超精密計測 / 原子分子物理 / 高性能レーザー |
研究概要 |
本研究ではYb^+とBa^+の単一イオン光時計を構築してそれらの周波数比を計測し、微細構造定数αの時間変化の検出を目指す。京都大学では、波長411nm ^2S_<1/2>-^2D_<5/2>時計遷移の単一イオン分光を、超微細構造のない偶数同位体^<174>Yb^+で進めた。時計遷移励起用レーザーの周波数安定度を改善し分解能を20kHzまで高め、トラップ中のイオンの振動により生じるスペクトルのサイドバンドを検出した。より小さな不確かさが期待できる奇数同位体^<171>Yb^+のレーザー冷却を、超微細構造の問題を克服して確立し、波長サイズ(ラム・ディッケ領域)閉じ込めをほぼ達成した。蛍光検出を高速化し、^2D_<3/2>準位の超微細構造を利用して、波長435nm ^2S_<1/2>-^2D_<3/2>時計遷移をレーザー冷却サイクルから分離することに成功し、この時計遷移を分光する準備が整った。Ba^+では時計遷移を励起する差周波光の周波数安定化と、奇数同位体を冷却するレーザー群の整備を進めた。長時間連続運転可能な光周波数コムを目指して、低パワーの半導体レーザーによる直接励起でYb:KYWレーザーをモード同期発振させる技術を確立し、非線形光ファイバーを用いてスペクトル幅を1オクターブに拡大した。 大阪大学では、蛍光集光効率を高める2次元型イオントラップにおいて、イオン生成中の原子の付着による電極表面の経時変化を抑える対策として、トラップをイオン生成領域と観測領域に分けて輸送する手法を確立した。観測領域での全方向のマイクロ運動の補正と、トラップ安定条件の詳細な評価を行った。東京理科大学では、作製した線幅100Hz以下の半導体レーザーシステムを用いて原子干渉計を構成し、電磁場の位相を10mradレベルで測定した。Hz線幅の安定化レーザーを目指して、縦置き型の高フィネス共振器を作成し、その共鳴線幅が5.7kHzであることを評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Yb^+を用いて偶数同位体で単一イオン分光法を確立した。また、難しいと予測していた超微細構造をもつ奇数同位体^<171>Yb^+のレーザー冷却技術を確立し、冷却遷移と時計遷移の分離にも成功した。これらにより、不確かさの小さい^<171>Yb^+を用いて基準スペクトル検出し光時計を構築する準備が整った。また、低パワーの半導体レーザー励起で1オクターブ光周波数コムを実現し、長時間連続運転可能な光周波数比計測システム実現へ一歩踏み出すことができた。大阪大学と東京理科大学は、それぞれの要素技術を確実に発展させ、蛍光の高速検出や時計レーザーの安定化などの重要技術の協力で、研究目的の実現に向けて進捗を加速している。
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今後の研究の推進方策 |
Yb^+では、^<171>Yb^+へ研究を移行し、^2S_<1/2>-^2D_<3/2>、^2D_<5/2>時計遷移で基準スペクトルを得る。2台目のトラップ装置を作成し、2台の比較から系統的な周波数シフトを測定し、不確かさ評価を開始する。Ba^+では、差周波光の線幅狭窄化・安定化を継続して単一イオン分光にとりかかるとともに、奇数同位体のレーザー冷却を進める。光周波数コムは、Yb:KYWレーザーで発生させたコムの周波数制御方法を確立する。Ti:Saレーザーによるコムを含め、周波数比計測を可能とする。大阪大学では、観測領域の集光効率を向上させるために、トラップ上部の板状電極を接近させた場合の特性評価を行う。さらに高い開口数をもつ光学系の設計と実装を行う。東京理科大学では、縦置き型光共振器で周波数安定化を行い、2台の安定化レーザーのビート評価と、Caラムゼー共鳴信号との比較を行う。両大学は引き続き、スペクトル検出の高速化とレーザーの線幅狭窄化を中心に京都大学へ技術協力を行う。
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