研究領域 | 反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開 |
研究課題/領域番号 |
21106004
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
折田 明浩 岡山理科大学, 工学部, 教授 (30262033)
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キーワード | アセチレン / 保護 / ホスホリル / 有機材料 / 太陽電池 / 色素 |
研究概要 |
本研究では有機金属反応の集積化による合成反応の簡略化とそれを応用した有用化合物の創製を目指す。これまでにスルホンを利用した芳香族アセチレンの簡略化合成法を開発したが、より実用的かつ汎用的な合成法の確立を目指して、新規な末端アセチレン保護基の開発を行った。アセチレン保護基として様々な官能基を検討したところ、ジフェニルホスホリル基(Ph2P(O))が有効であることが分かった。ホスホリル基は原料の入手が容易で、末端アセチレンへの導入および脱離が容易である。また、一般に用いられるシリル保護基と比較して格段に極性が高いため、極性の差を利用して目的物を容易に単離精製することができる。この特徴を利用すれば、これまで合成が困難であった様々なアセチレン誘導体を簡便かつ実用的なスケールで合成することができる。例えば、非対称置換型フェニレンエチニレンや光学活性二重らせん型フェニレンエチニレンなど有機発光材料としての新たな展開が期待できる化合物の合成に成功した。 我々はこれまでにアセチレンが有機発光体や有機トランジスタ材料として利用できることを示したが、アセチレン誘導体が色素増感太陽電池の色素として有効であることを明らかにした。とりわけアリーレンとして9,10-アントリレンを導入した場合に理想的な吸収波長を示した。アリーレンエチニレンの適切な位置に電子供与基および電子吸引基を置換することで、約5%の効率で光電変換できることが分かった。供与基および吸引基がアセチレン色素の最大吸収波長やモル吸光係数に及ぼす影響とともに光電変換効率に与える影響についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はアセチレンの新規保護基としてホスホリル基を開発した。本年度はホスホリル基を末端アセチレンに導入する保護反応として、末端アセチレンの直接ホスホリル化法およびスルフィド化に続く酸化反応という二種類の導入法を確立した。いずれも汎用性に富み、様々なアセチレン誘導体に適用することが可能である。また、ホスホリル保護基を用いた反応には、(1)高い極性を利用した生成物の単離精製の簡略化、(2)反応の集積化、(3)directing groupとしての利用、(4)有用化合物の合成、など様々な応用展開が期待できる。このうち、(1)高い極性を利用した生成物の単離精製の簡略化として、種々の合成例を示した。例えば、これまでシリルアセチレンを用いて行われていた薗頭カップリングをホスホリルアセチレンで行ったところ、一置換体と二置換体をカラムクロマトグラフィーによって簡単に分離できることを示した。シリル保護基を用いて同じ反応を行った場合にはこれら2つの生成物の分離は極めて困難である。同様に、非対称に置換したフェニレンエチニレン誘導体や光学活性二重らせん型フェニレンエチニレンの簡略化合成法にも成功した。これらのアセチレンは新規な有機発光材料として現在注目を集めている化合物である。また、(4)有用化合物の合成として、アセチレン色素の合成を行った。これまでアセチレンは発光材料や有機トランジスタ材料として利用されてきたが、新たに色素増感太陽電池に利用可能なアセチレン色素の設計指針を明らかにするとともに5%の光電変換効率が達成できることを示した。すなわち、アリーレンエチニレンの適切な場所に電子供与基および吸引基を置換するとともに、アントリレンを導入することで色素の最大吸収波長をチューニングできることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
アセチレンの新規保護基の開発およびそれを用いた有用化合物の合成例を今年度報告した。この保護基を用いた反応を更に発展させる、(2)反応の集積化、(3)directing groupとしての利用、(4)有用化合物の合成、を集中的に推進する予定である。具体的には、(2)反応の集積化として、ホスホリル基の脱保護および炭素-炭素結合生成反応の集積化を行う。ホスホリル基は強塩基で処理することで定量的に除去が可能なことから、塩基性条件で可能な炭素-炭素結合生成反応と組み合わせより複雑なπ拡張分子の合成が実現できるであろう。我々はこれまでに塩基性条件下における合成プロセスの集積化に成功しており、これらの研究過程で得られた知見を基に、ホスホリル基の脱保護および炭素-炭素結合生成反応の集積化を実施する予定である。また、ホスホリル基の強力な電子吸引効果や弱いながらも配位子として機能することを利用して、(3)directing groupとしての利用する予定である。これらの反応では、directing groupとして利用した後でホスホリル基を除去することができるため、様々な応用展開が期待できるであろう。今年度はホスホリル基の高い極性を利用してフェニレンエチニレンを合成したが、これを更に展開して、ブタジエン誘導体や環状アセチレンの合成にも展開する予定である。 別の集積化反応として、新規π系の構築にも着手する。これまでに高い環歪みを有する環状アセチレンを出発原料に用い、環歪みの解放を駆動力としてジベンゾペンタレンの合成を達成した。この反応ではアルキルリチウムのアセチレンへの求核付加それに続く渡環反応によってペンタレン骨格が構築された。この反応を更に応用展開することで新たな反芳香族化合物の合成を試みる。
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