研究領域 | 反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開 |
研究課題/領域番号 |
21106004
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
折田 明浩 岡山理科大学, 工学部, 教授 (30262033)
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研究期間 (年度) |
2009-07-23 – 2014-03-31
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キーワード | アセチレン / 保護基 / ホスホリル基 / 有機材料 / 太陽電池 / 色素 / ペンタレン |
研究概要 |
本研究では有機金属反応の集積化による合成反応の簡略化とそれを応用した有用化合物の創製を目指す。これまでにスルホンを利用した芳香族アセチレンの簡略化合成法を開発したが、この反応を利用して得られる高歪み型環状アセチレンは高い反応性を持ち、ハロゲンの付加、続く渡環反応によってハロゲン置換ジベンゾペンタレンを得ることができた。臭素、および臭化ヨウ素を用いた場合に速やかに反応が進行し、目的とするジベンゾペンタレン誘導体を収率良く得ることに成功した。続いてハロゲンを手掛かりに薗頭カップリングあるいは鈴木宮浦カップリングを行ったところ、アセチレンおよびアリール置換ジベンゾペンタレンが得られた。また、ハロゲン部分をホウ酸エステルに変換後、これを鈴木宮浦カップリングに供することで、ペンタレン2量体、3量体、4量体を得ることができた。これらペンタレンオリゴマーの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、π共役系の拡張が観測された。 我々はこれまでにアセチレンが有機発光体や有機トランジスタ材料として利用できることを示したが、アセチレン誘導体が色素増感太陽電池の色素として有効であることを明らかにした。とりわけアリーレンとして9,10-アントリレンを導入した場合に理想的な吸収波長を示した。また、アセチレン色素を精密合成するために新たなアセチレン保護基としてPh2P(O)基を昨年度開発した。本保護基は容易に導入、除去が可能なうえ、酸性および弱塩基性の条件で安定である。この保護基を利用して一連のアセチレン色素を合成した。アリーレンエチニレンの適切な位置に電子供与基および電子吸引基を置換することで、約5%の効率で光電変換できることが分かった。供与基および吸引基がアセチレン色素の最大吸収波長やモル吸光係数に及ぼす影響とともに光電変換効率に与える影響についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は高歪みな環状アセチレンを原料に用いて、環歪みの解放を駆動力とするアセチレンのハロゲン化と渡環反応を集積化することに成功した。また、得られたハロゲン置換ペンタレンはハロゲンを手掛かりにして、新たな炭素-炭素結合生成反応によって様々な誘導体へ導くことができる。ホウ酸エステル化と続くカップリング反応を集積化することでペンタレンオリゴマーの合成に成功した。この時、ペンタレン間にはπ共役系の拡張が観測され、紫外可視吸収スペクトルでは長波長シフトが見られた。ジベンゾペンタレンは16π電子系の反芳香族化合物であり、有機材料として注目を集めている化合物であるが、本手法により簡便かつ実用的なスケールで様々なペンタレン誘導体を合成する道が拓けた。昨年度アセチレンの新規保護基としてホスホリル基を開発した。本保護基は高い極性を有しており、そのため従来分離困難であったアセチレン誘導体を簡単に精製することが可能になった。さらに、この特徴を利用することでダブルヘッド型アセチレン色素の合成に成功した。一連のアセチレン色素を合成し色素増感型太陽電池に利用することでその構造と特性との評価を行った。これまでアセチレンは発光材料や有機トランジスタ材料として利用されてきたが、新たに色素増感太陽電池に利用可能なアセチレン色素の設計指針を明らかにするとともに5%の光電変換効率が達成できることを示した。すなわち、アリーレンエチニレンの適切な場所に電子供与基および吸引基を置換するとともに、アントリレンを導入することで色素の最大吸収波長をチューニングできることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
アセチレンの新規保護基を用いたアセチレン色素の合成例を今年度報告した。この保護基を用いた反応を更に発展させる、(1)反応の集積化、(2)directing groupとしての利用、(3)有用化合物の合成、を集中的に推進する予定である。具体的には、(1)反応の集積化として、ホスホリル基の脱保護および炭素-炭素結合生成反応の集積化を行う。ホスホリル基は強塩基で処理することで定量的に除去が可能なことから、塩基性条件で可能な炭素-炭素結合生成反応と組み合わせより複雑なπ拡張分子の合成が実現できるであろう。我々はこれまでに塩基性条件下における合成プロセスの集積化に成功しており、これらの研究過程で得られた知見を基に、ホスホリル基の脱保護および炭素-炭素結合生成反応の集積化を実施する予定である。また、ホスホリル基の強力な電子吸引効果や弱いながらも配位子として機能することを利用して、(2)directing groupとしての利用する予定である。これらの反応では、directing groupとして利用した後でホスホリル基を除去することができるため、様々な応用展開が期待できるであろう。今年度はホスホリル基の高い極性を利用してフェニレンエチニレンを合成したが、これを更に展開して、ブタジエン誘導体や環状アセチレンの合成にも展開する予定である。 高い環歪みを有する環状アセチレンを出発原料に用い、環歪みの解放を駆動力としてジベンゾペンタレンの合成を達成した。応用範囲の広いペンタレン合成法を確立することができたが、さらに官能基の導入法などを開発しヘテロ元素置換ペンタレンなど様々な誘導体の合成法を探る。
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