アスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖(以下、N-結合型糖鎖と略す)は、細胞間相互作用、タンパク質品質管理におけるタグ分子、免疫応答におけるシグナル伝達、あるいはタンパク質の3次構造の形成や血中内安定性等、様々な生物学的機能発現等に深く関与していることが示唆されている。研究代表者は、天然には不均一混合物として極微量しか存在せず、単離精製することが困難なこれらN-結合型糖鎖の機能解明を目指して、マイクロフロー合成と固相合成を基盤とした高度集積合成を検討することにした。 N-結合型糖鎖の構造を5つのフラグメントに分割し、これらを固相上で順にグリコシル化を行う戦略を立てた。これらのフラグメントは糖鎖合成化学において難関であるα-シアリル結合、β-マンノシル結合、そして求核性の低いアスパラギン側鎖の窒素原子とのN-グリコシル結合を含むため、これのフラグメントについては液相でのグリコシル化反応を検討した後、グリコシドフラグメントとして固相上に導入することとした。これら3つのフラグメントの合成において、通常のバッチプロセスではグリコシル化反応の制御が困難であったため、マイクロリアクターを用いるフロー系反応により、収率ならびに選択性の向上を達成し、また連続フロープロセスによるこれらフラグメントの大量合成に成功した。またオキシブチレン架橋ポリスチレンとフルオラス溶媒法による固相への試薬濃縮効果を利用した合成法を確立し、これらフラグメントを用いてシアル酸含有複合型N-結合型糖鎖の固相全合成に初めて成功し、構造多様性に対応可能なN-結合型糖鎖の高度集積合成における基盤を築いた。
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