研究概要 |
独自に開発した同一時空間反応集積化法である触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応を活用し,同一合成中間体から新しい作用機序を持つ抗生物質,(-)-platoncin,(-)-platensimycinの形式的不斉全合成を達成した。 β-位に置換基のないα,β-不飽和カルボニル化合物に対する求核剤の1,4-付加反応は速いため,優先して反応が進行し,分子内の適切な位置に電子求引性基の置換した不飽和結合があれば,生じたエノラートはさらに1,4-付加反応を起こすと予想される。求核剤としてヒドリドを用いると,橋頭位にメチル基を有する含四級連続不斉炭素の構築が期待できるため,モデル化合物を合成し,THF中-78oCでL-Selectrideと反応させたところ,期待した生成物が高立体選択的に得られた(62%,dr=>20/1)。この生成物は四級炭素を含む連続不斉炭素を有しているので,多環式天然物のキラルビルディングブロックとして有用である。この手法を適用し,優れた抗腫瘍性抗生物質bruceantinに含まれる四級不斉炭素を含むトランス縮環部位の高立体選択的構築に成功した。β-位に置換基のないα,β-不飽和カルボニル化合物の反応から開始するタンデム1,4-付加反応は,他の求核剤を用いても同様に進行すると考えられるため,アルコキシドを用いれば,橋頭位メチル基に酸素原子を導入した環構築が見込まれるので検討中である。 大環状β-ケトエステルの渡環型タンデム1,4-付加反応を検討した。その結果,対応する基質の渡環型Diels-Alder(TADA)反応の主生成物とジアステレオマーの関係にある生成物が高立体選択的に生成することを見出した。渡環型タンデム1,4-付加反応を多環式天然物の全合成に適用した例は限られているので,更なる展開を進めている。
|