まず、以下の方法によりゾアンタミンの不斉全合成を行った。すなわち、分子内Diels-Alder反応を用いる集積的合成手法を適用してABC環骨格を効率的に構築した後、下側部分の前駆体となるアミンセグメントを導入し、さらに分子内環化反応によりFG環を構築した。ゾアンタミンの全合成を達成するためには、A環とB環に存在する2つのケトン部を区別し、後者のα位炭素上のみにメチル基を導入する必要がある。種々検討の結果、あらかじめA環ケトン部をエノールシリルエーテルの形で保護した後に、B環ケトンからエノラートを調製してメチル化反応を行い、最後にDE環部を構築して目的を達することができた。 引き続いて、ゾアンテノールの不斉全合成を検討した。ゾアンタミンA環のシクロヘキセノン部位を酸化的に芳香化することでゾアンテノールへ変換する計画を立て、モデル化合物を用いて予備的知見を得た。ところが、それらの酸化条件をゾアンタミンに適用した場合には、分解反応のみが進行してゾアンテノールは得られないことが判明した。DEFG環のアミノアセタール部位は、酸性条件下で容易に開環することに加え、窒素原子が酸化された可能性も考えられる。一方、ゾアンタミン全合成の終盤では、A環部ケトンのエノールシリルエーテルを酢酸パラジウムによりエノンに酸化しているが、この際にDEFG環部は損なわれない。そこで、これに注目して、温和な条件下で実行可能な変換法を開発した。すなわち、A環とB環の2つのケトンを同時にエノールシリルエーテルに変換後、酢酸パラジウムで同時に酸化してジエノンとし、二重結合の異性化反応によりA環を芳香化することに成功した。最後にB環上にメチル基を導入し、ゾアンテノールの世界初の全合成を達成した。
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