電位の入力に対応して物質の色調が変わる現象は「エレクトロクロミズム」と呼ばれ、調光材料や表示機能への応用が期待されている。ここで、分子への入力として用いる外部刺激には電位以外にもさまざまなもの利用可能であり、出力として検出する物性値も多様性がある。H21年度は、より高度な応答機能の実現をめざし、立体配置の安定なビナフチル骨格を組み込むことで、キロオプティカル応答をも示す酸化還元対の設計とその集積合成を計画した。ここで中性状態でのジヒドロヘリセン骨格が蛍光性であることも多重応答機能の獲得には有利な点である。 ビフェニル骨格に四つのアリール基が置換したヘキサフェニルエタン誘導体3aは、二電子酸化に際してC-C結合が切断され、トリアリールメチリウムに特徴的な強い発色を示す安定なジカチオン4a^<2+>を与える。そのヘリシティや軸不斉は容易にラセミ化するが、新たに合成した1-2^<2+>は、光学活性体が安定にとりだせることを見出した。これにより、電気化学的入力に対し、UV-Visスペクトルや蛍光スペクトルばかりでなく、円二色性(CD)スペクトルもが変化する三重出力応答挙動を実現した。また長鎖アルキル基を導入したジカチオンは多くの溶媒に可溶となり、このものが興味深い「ソルバトクロミズム挙動」を示すことを見出した。 上記の化合物の合成ルートでは、基質への四重の付加やワンポット反応などの集積的な手法により合成の効率を高めており、今後は、新規反応手法の採用等で更なる高度集積化を図る予定である。
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