研究領域 | 反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開 |
研究課題/領域番号 |
21106015
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新名主 輝男 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (90037292)
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研究分担者 |
五島 健太 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (30380538)
武村 裕之 日本女子大学, 理学部, 教授 (60183456)
芝原 雅彦 大分大学, 教育福祉科学部, 准教授 (60253762)
出田 圭子 九州大学, 先導物質化学研究所, 技術職員 (90380542)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 反応集積化 / マイクロフロー反応 / マイクロリアクター / ナノチューブ / π電子系 / 分子認識 / 超分子化学 / マクロサイクル |
研究実績の概要 |
電子受容性を有するピロメリット酸ジイミド基盤マクロサイクル類は電子受容性の空孔を持つので、電子供与性ゲスト分子の選択的包接が観測される他、ピロメリット酸ジイミドのラジカルアニオン種の生成に基づく物性についても興味が持たれる。 本研究では、 1.基盤となるマクロサイクルの収率の向上, 2. 連結部位となるエチニル置換大環状化合物の合成法の開発、3. エチニル置換マクロサイクル類のGlaser反応による連結反応、について研究するとともに、合成したマクロサイクル類の電子スペクトル及び酸化還元挙動について調べた。また、芳香族ジイミドの化学に関連して、電子のドナー性側鎖を有するナフタレンジイミドの光電子移動反応に基づくフォトクロミズム現象及び結晶の屈曲現象を見出し、それらの現象が起こる理由について調べた。その結果、1.マイクロフロー法とバッチ法を組み合わせる事により、従来の合成法と比較して約10倍の収率で目的の[3+3]マクロサイクルが得られるようになった。2.イミド交換反応を利用する事により、目的のエチニル置換[3+3]マクロサイクルの合成に成功し、一連のエチニル置換マクロサイクル類の吸収スペクトル及び酸化還元挙動についても精査した。また、ブタジインをスペーサーとし、連結基として臭素原子が置換したマクロサイクル類の合成法を開発した。臭素原子が6個置換した[3+3]マクロサイクルの薗頭反応では6個ともにエチニル基が導入され、臭素置換マクロサイクル類は合成中間体として有用である事が分かった。3.ナノチューブ合成の予備実験として、エチニル置換[3+3]マクロサイクルをEglinton条件で反応させた所、黒色の難溶性固体が得られた。有機溶媒に難溶性のため構造解析は出来ていないが、紫外可視反射スペクトルから非常に長いπ共役系を有していることが示唆された。現在、反応条件の最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は予定通りに進行していると判断できる。ナノチューブ合成は「研究実績の概要」に述べた様に、1.チューブの構成単位となるマクロサイクル類の合成、2.連結基としてのエチニル基が置換したマクロサイクル類の合成、3.エチニル基置換マクロサイクル類のGlaser反応によるナノチューブの合成、に分けられるが、既に、1,2の合成は達成しており、1のマクロサイクル合成法として、環化反応をマイクロフロー法で、その後の脱水反応をバッチ法で行う方法を開発した(論文投稿中)。また、二種類のエチニル置換マクロサイクル類も合成して、それらの構造、光物理的性質、及び酸化還元挙動について調べている(論文投稿中2報)。既に、3のエチニル基置換マクロサイクルのGlaser反応によるナノチューブ合成の研究も始めており、バッチ法だけでなく、Glaser反応に特化したマイクロフロー反応器を自作してフロー反応による合成法の開発、分子量一定のナノチューブを合成する方法等、ナノチューブ合成に焦点を当てて研究を続けている。 一方、我々は、電子供与性側鎖を有するナフタレンジイミドは、結晶状態で光照射によりアミンからジイミドへの分子内光励起電子移動反応が起こり、フォトクロミズム類似の現象を示す事を発見した。また、この分子の結晶は、光照射により屈曲する事も見出し、色調変化及び結晶屈曲はラジカルアニオン種の生成に基ずく事を明らかにした。本研究の副産物の成果ではあるが、光励起電子移動反による色調変化及び結晶屈曲は初めての例である。
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今後の研究の推進方策 |
最終目的化合物であるナノチューブの合成に焦点を当てて研究を進める。具体的には、 (1)エチニル置換マクロサイクル類のGlaser反応による直接的合成法の開発を行う。 昨年度からGlaser反応に特化したマイクロリアクターの開発を進めている。銅触媒と1,4-ジエチニルベンゼンを混合した溶液に酸素ガスを導入する方法でフロー反応を行い、滞留時間26秒で五量体が主生成物として得られる事を見出している。バッチ法では、一連の偶数量体が生成する事から、マイクロフロー反応独特の特徴が解明できるのではないかと、期待している。現在、反応条件最適化及び様々な基質への適用について調べている。また、エチニル置換マクロサイクルのGlaser反応をバッチ法で行うと、有機溶媒難溶性の生成物が得られる。本生成物の構造解析は進行中であるが、反射スペクトルから拡張π電子系を有している事が推定され、物性的にも興味深い。 (2) 段階的な連結法で分子量一定のナノチューブを合成する方法を開発する。 マクロサイクルの上下にそれぞれ三個のエチニル基を有する前駆体を用いて、Glaser反応による連結反応を行うとともに、まず、片側三個のエチニル基をキャップ分子と反応させ、その後、残りの三個のエチニル基を段階的に反応させる方法で一定の分子量をもつチューブ分子を合成する。(3) 連結基としてエチニル基以外のブタジイン、エチニルベンゼン誘導体、1,4-ジエチニルベンゼン等も用いて、ナノチューブを合成する。 (4) 得られるナノチューブは、全く新しいタイプの化合物なので、ゲスト分子の包接挙動や新規拡張π電子系化合物としての物性を精査する。
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