研究領域 | 配位プログラミング ― 分子超構造体の科学と化学素子の創製 |
研究課題/領域番号 |
21108007
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
張 浩徹 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60335198)
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研究分担者 |
小林 厚志 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50437753)
加藤 昌子 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80214401)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 液晶 / レドックス / 液体 / 金錯体 / 供与結合 / カラムナー相 / イオン性分子集合体 / アルキル長鎖 |
研究実績の概要 |
本研究では、レドックス活性金属及び配位子が創り出すソフトな電子と、「ソフトなマクロ構造」を共存・連動させた多重安定系の構築を指向している。本期間は以下の研究項目について明らかにした。 1)本研究では[Pt(Bdt)(R-bpy)]のPt及びBdtのS原子上に存在する非共有電子対とルイス酸とのDative Bond形成による多核化に成功した。その結果、[Pt(Bdt)(C13bpy)]とCd(II)の反応によりShuttlecock型超分子を、一方、Rにt-Bu基を有する場合、捻れ型三核錯体の形成に成功した。興味深い事に、ルイス酸との複合化により、集積化されたメソゲン部位の個数に応じ電気化学応答が多重化した。更にこの様なDative Bondによるメソゲンの多核化は、そのレドックス応答の変調ばかりでなく、双極子配向やマクロ相の制御に向けても有用であることを示した。 2)レドックス活性なイオン性カラムナー液晶の創成 我々はこれまでに展開した中性のレドックス活性液晶に加え、電荷を導入したイオン性集合体を創成するべく、[Au(Bdt)(Cnbpy)]Anionの合成に成功した。興味深いことに、[Au(Bdt)(C13bpy)]PF6はメソゲンの自己集合カラムを含む結晶相であるのに対し、 [Au(Bdt)(C10,8bpy)]PF6のAs-synthesized試料はC2/m対称性を有するレクタンギュラーカラムナーオーダー液晶相あることが明からとなった。この液晶は、中性Ptメソゲンとカラムナー液晶であることは共通している一方、その安定性は、メソゲンへの電荷導入とそれに伴うアニオンの挿入により変調されている。これにより、金属種による初期構造の制御が可能であるばかりでなく、金錯体においては還元に対応する応答性も新たに示し、Pt(II)系とは異なる構造及び物理化学的性質が発現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、多核錯体や多分子会合体という広義の意味でのクラスターから異なるマクロ集積構造を構築し、レドックス、熱、光によりその分子状態若しくはマクロ構造に摂動を与え、多重安定状態を実現しうる新しい分子系を構築することを目的としている。平成24年度は、既にこれまでにその合成法を確立している中性白金及びカチオン性金錯体に加え、Cation+[MI (NIL)(R-bpy)](M = Rh, Ir)を合成し、自己集合によるアニオン性カラム構造の形成、対カチオンによる構造及 びレドックス特性の制御を試みた。更に、メソゲンのDative Bond形成能を利用した基盤固定化を実現することを目的とした。 その結果、カチオン性メソゲンである[Au(Bdt)(Cnbpy)]+の高収率合成法を確立すると共に、アルキル鎖長の変化による結晶及び液晶相の安定性を定量的に明らかにできた。予想外の発見としてこれらカチオン性メソゲンはメソゲン上に正電荷を有するにも関わらず双極子相互作用駆動の自己集合能を発現し、カラムナー構造を形成した。このようなレドックスセンターの直接積層によるカラムナー構造は、レドックス誘起状態変換の実現に向けて極めて有用な知見である。更にイオン化により新しい液晶相が発現することも見出し、またその液晶相の形成機構についても知見を得ることができた。 続いてメソゲンの基盤集積に向けては、Dative Bondによるクラスター化及びレドックス応答の多重化に初めて成功した。本成果はInorganic Chemistry誌に掲載され、Highlight Figureにも採用され注目を集めた。本研究では更にホスホン酸部位をレドックス活性メソゲンに化学修飾した分子の合成にも成功し、ITO基板上への固定化と、レドックス応答の検出に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である今年度は、本研究課題の最終目的であるレドックス活性クラスター分子集合体の電気化学的状態変換ライブラリーを構築すべく、最終段階の研究課題を展開する。はじめに、構成要素であるレドックス活性集合体については分子及びマクロ相を設計する高い自由度が必要である。これまでにPt, Pd, Auを中心金属に用い、配位子にはカテコラートやベンゼンジチオラート等のレドックス活性配位子を導入し、多様な結晶、液晶、液体相を創出してきた。本年度は更なる自由度、設計性の向上を指向し、[M(RAL)2](RAL = Redox-active Ligand)型メソゲンとカチオン性、アニオン性及び双極性長鎖の複合化による新規マクロ相の創出を進める。これらの対称型メソゲンは、酸化及び還元活性であり、その中心電荷を中性からカチオン性またはアニオン性へと多様に変換できるばかりでなく、レドックスに伴い、混合原子価状態が出現することによる極性化も期待できる。このような性質により、レドックスによる液晶化やレドックスによる非液晶化を実現できることが期待される。 この様な要素設計によるマクロ相の変調に加え、電極界面とレドックス活性分子の精密配列による界面構築を進める。具体的には、ホスホン酸修飾アンカー分子によるレドックス活性SAMの評価(研究分担者である金井塚と遂行)に加え、アンカー修飾電極上へのバルク相のマウントを進め、アンカー分子の配向の転写による場来る配向制御や、アンカー分子のレドックス応答に伴う非線形的なバルク配向制御を進める。以上の研究により、結晶ー液晶ー液体場を跨ぐ電気化学的状態変換システムを設計するための動的配位プログラミングを完成させる。
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