本研究は、芳香環に囲まれたπ電子系ナノサイズ空間を活用して、有機分子や金属錯体を精密集積した超分子構造体を自在構築するとともに、その分光・電気・磁気特性を解明することで次世代の機能性材料に向けた分子集積素子を開発する。これまで申請者は、パネル状3座配位子とピラー状2座配位子とパラジウム錯体を水中で混合し、これに芳香族分子を添加するだけで、箱型錯体空間が一義的に組み上がることを見出してきた。この空間内には、2分子および3分子の芳香族分子が選択的に集積できる。そこで本年度の研究では、金属-芳香環相互作用の誘起を目指して、平面状金属錯体と箱型錯体骨格の金属(d)-芳香環(π)相互作用に起因する、磁性の制御すなわちスピンクロスオーバーを検討した。平面四配位のビス(アセチルアセトイミナト)ニッケル(II)錯体は通常、赤色を呈して反磁性である。このニッケル錯体を水中で無色の箱型錯体内に、1分子または2分子包接させることで、溶液は濃緑色に変化した。その磁化率測定から、包接錯体は常磁性であることが明らかになった。また、X線結晶構造解析に成功して、ニッケル中心のジオメトリーは包接前後で変化しないことが示された。すなわち、この磁性変化は単なる包接のON-OFFで可逆的に起こることから、包接によるスピンクロスオーバーを初めて達成した。アザポルフィリンコバルト(II)錯体においても、包接による金属-芳香環相互作用の誘起に成功した。
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