生命現象の根幹を支配し、多彩な高次機能をつかさどる蛋白質は、分子進化により創り出された究極の超構造体である。その蛋白質を機能材料創製の基本ユニットとして用いる戦略は、合理的分子設計の一つであり、バイオナノテクノロジーのフロンティアといえる。本研究は、蛋白質や金属ナノ粒子を所望の序列で階層的に組織化する方法(鋳型内交互積層法)により中空シリンダー構造のナノチューブを構築し、その一次元内孔空間や管壁の動特性と協奏した機能の発現、さらにはそれらを基板と融合させ、従来に類例のない機能分子システムの創製を目指す。 蛋白質ナノチューブの合成と形態観察 初年度は計画に従い、蛋白質ナノチューブの効率高い合成法の確立とその形態観察に注力した。 多孔性ポリカーボネート(PC)膜をテンプレートとして、鋳型内交互積層法により蛋白質ナノチューブを合成。ヒト血清アルブミンをつなぐ正電荷層(グルー層)としては、高分子量のポリ-L-アルギニンが最適であることを見出した。得られた複合膜からテンプレートを除去する際の溶媒には、DMFが有効であることを確認した。マイクロシリンジポンプ(設備備品)を新規購入し、再現性の高い合成プロトコールを確立。ナノチューブの内径・外径・管壁厚・長径の測定は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)観察により行った。さらに、このナノチューブ合成法が他の蛋白質(フェリチンなど)にも適用できることを示した。現在、糖蛋白質、酵素、抗体など、様々な階層組成からなる蛋白質ナノチューブの合成に取り組んでいる。
|