生命現象の根幹を支え多彩な高次機能をつかさどる蛋白質は、進化の過程を経て最適化されてきた究極の超構造体である。その蛋白質を機能材料創製の基本ユニットとして用いる戦略は、合理的な分子設計の一つであり、バイオナノテクノロジーのフロンティアといえる。本研究は、蛋白質、人工ヘム蛋白質、金属ナノ粒子を所望の序列で階層的に組織化する方法により、構造明確なナノチューブやナノクラスターを構築し、その分子配置・配列を利用した新しい機能の創出、さらにはそれらを用いた機能分子システムの創製を目指している。最終年度である平成25年度は、以下の成果を得ることができた。 1)蛋白質ナノチューブの機能拡張 これまで、多孔性ポリカーボネート膜を用いた鋳型内交互積層法により、中空シリンダー構造の蛋白質ナノチューブを合成し、その構造と機能の相関を明らかにしてきたが、最終年度もさらなる機能拡張へ展開した。具体的には、金ナノ粒子含有ナノチューブの触媒作用(ニトロフェノールの還元)、アルブミンマイクロチューブの大腸菌捕捉、リパーゼナノチューブ内孔空間におけるラクトンの開環重合を実証した。 2)蛋白質クラスターの創製 ヘモグロビンの分子表面に複数個のヒト血清アルブミンを結合させた構造明確な(ヘモグロビン-アルブミン)クラスターを合成し、その構造と酸素配位平衡を明らかにした。さらにアルブミンにフラビンを包接させることで、外部添加したNADHから中心ヘモグロビンへの電子移動経路を構築、ヘム鉄を還元することに成功した。この蛋白質クラスターは生体投与可能な人工酸素運搬体となり得る。 最後に、延5年間にわたる研究成果をまとめ、蛋白質や金属ナノ粒子を望みの序列で階層的にプログラムした超構造体の合成、構造、高次機能を総括した。
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