計画研究
火山岩については、平成23年度までに得られたデータに基き、日本列島全体の流体分布マップを描いた。特に島弧接合部において、流体レジームがどのように変化するかに注目し、沈み込むスラブの形状をほぼそのまま反映する、すなわち、流体はほぼ真上に上昇することが分かった。また、東北日本火山岩のU-Th放射非平衡測定を続行し、Thおよび U同位体比をTIMSで測定すると同時に、入手したU・Thスパイクを用いて同位体希釈法によるU・Th濃度の精密測定を行った。その結果、島弧を横切る方向にU-excessからTh-excessに変化する様子が明瞭化し、同時に東北日本下のマントルが「enrich」した性質ももつことも明らかとなった。熱水・地下水については、日本列島におけるNaCl-CO2型の熱水の分布調査をさらに進めた。また、まだややまばらであるものの、BとLiの濃度、同位体についての全国マップを描きつつある。鉱床・変成岩については、2.9 Maに形成された北海道豊羽鉱山に焦点を絞って研究を進展した.これまでに得られた硫化鉱物のPb同位体比組成に加えて, Ndの多元素同位体分、He同位体比測定、ならびに鉱床関連母岩(火成岩・堆積岩)の各種同位体比組成も分析を行ったところ、鉱床鉱物の生成にスラブ流体の寄与が明確に認められ、鉱脈型鉱床の起源が、天水+地殻物質ではなく、深部由来であることが分かった。モデル化については、多相流れと変形に着目した検討を実施し、平成23年度までに確立した多相流体が存在する系における熱弾性挙動に関する構成則に基づくシミュレータ開発、固相が十分に早く変形する系における流体挙動に関するモデル化を構築した。また、スラブ流体の発生と移動、水が岩石の実効粘性に及ぼす効果を取り入れ、火山弧の幅や位置、地殻熱流量、地震波速度構造を再現する沈み込み帯スケールの対流モデルを構築した。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度までの火山、熱水、鉱床についての分析技術開発および蓄積データに基づき、さらにデータを補間しつつ、日本全国的なマップをスラブ由来流体および熱水について描くことができた。また、数値モデルについても、当初の目的の一つであったスラブ流体の発生、移動とそれらがマントルの実効粘性に及ぼす効果を取り入れたモデルの構築に成功した。このモデル結果を観測と対比することで、マントルの流動・温度構造に現実的な制約を課すことができた。
最終年度は、これまでの個別研究をさらに進めるとともに、全体をとりまとめて統合的なモデル、すなわち、地殻流体の発生と移動の描像を提出する計画である。火山グループでは、これまで蓄積してきた組成データに基づき、流体量の島弧スケールでの分布に加え、溶融の温度圧力条件を解明する。また、東北日本火山岩とそれ以外の島弧におけるのU-Th放射非平衡測定に基づく流体・マグマ移動の時間スケールを制約する。同時に、他の同位体システマティクス(Sr-Nd-Pb)の結果もふまえて、材料物質と溶融・メルト移動を総合的に理解することを目指す。熱水・温泉水グループでは、全国での調査結果をとりまとめ、各島弧での違いおよび太平洋側から日本海側にかけてのトレンドを把握する。とくに東日本の大地震との関連で昨年度採取された宮城および福島の湧水について、ホウ素濃度とともにホウ素同位体比を測定し、その成因を考察する。これらを統合し、全国深部流体マップを完成させる。鉱床グループでは、平成24年度の結果に基づき、豊羽鉱床と同じく第四紀の鉱床である鹿児島県菱刈鉱床について同様の検討を行う予定である。ダイナミクス・数値計算グループでは、固体-液体(-ガス)多相流に関するモデルを統合し、観測と対応させる。沈み込み帯スケールの対流・物質循環の研究については、流体発生と元素移動を組み込み、火山、熱水、鉱床の観測と比較する。また、アナログ実験からの理解も進める:柔らかな粒状体と液体の混合物のレオロジーと特殊効果(aging 効果やチクソトロピー)の解明を行うとともに、液体の分離過程をモデル化する。また、粒状体中の液体の選択的な移動・分離の問題をアイスレンズ形成とのアナロジーからモデル化を図り、上部マントル、地殻下部における液体の移動の特性の理解を目指す。
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