研究概要 |
本研究は,ラジカルと植物性菌細胞のナノ界面階層的反応ダイナミクスをモニタリングする新規システムを構築し,ナノ領域で顕在化するプラズマと細胞との相互反応が細胞階層構造に与えるダイナミクスを分子レベルで明らかにすることを目指している. プラズマ殺菌メカニズムとして,紫外及び真空紫外吸収分光法を用いたオゾン及び基底状態の酸素ラジカル密度測定と,それぞれの殺菌速度から、殺菌反応定数という新しい定量的指標に基づき評価を行った.その結果,基底状態の原子状酸素ラジカルによる殺菌は,オゾン殺菌と比べて2桁程度効率が大きいことが定量的に初めて明らかになった.また,酸素ガス流量比が0.6%のときに酸素ラジカル密度が最大値をとる一方で,殺菌速度が最も早くなり、酸素ラジカル密度と逆相関となった.この結果から,基底状態の原子状酸素ラジカルが殺菌に主要な活性種であることが明らかになった. 階層的反応ダイナミクスを明らかにするために,蛍光染色を用いてミドリカビの生体機能への影響を調査した.細胞膜を染色する蛍光色素DiIを用いて,プラズマ殺菌,紫外光殺菌,湿熱殺菌の3種類の処理を行った.紫外光照射,湿熱殺菌の場合は,細胞核など細胞内部に蛍光を発していないが,プラズマ照射のみ蛍光を発することが分かった.これはプラズマによって発生したラジカルによって細胞膜の機能が阻害されたために,色素が細胞内部に染色されたことを示唆する.したがって,ラジカル特有の効果があることが蛍光を用いた可視化により明らかになった.さらに過酸化脂質を染色するDPPPという色素を用いたところ,プラズマ照射後の場合のみ蛍光が確認され,細胞内の脂質が酸化されていることが明らかになった.過酸化脂質が蓄積するとDNAの破壊などが起こり細胞活動を停止するため,ラジカルによる細胞酸化がプラズマ殺菌における主要な殺菌原因であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共焦点レーザ蛍光顕微鏡による細胞機能の変化を観察することで階層的反応ダイナミクスを明らかにした.また,オゾン及び基底状態の酸素ラジカル密度測定と,それぞれの殺菌速度の評価から,基底状態の原子状酸素ラジカルによる殺菌は,オゾン殺菌と比べて2桁程度効率が大きいことを定量的に初めて明らかにしており,プラズマとカビ細胞との相互作用の解明を順調に進めている.
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今後の研究の推進方策 |
これまで,オゾンや基底状態の酸素ラジカルとカビ細胞との相互作用の解明に着目してきた.今後は,それ以外の反応性の高く,細胞活性を刺激する因子(ラジカル)の密度を定量し,ラジカルがどのような影響を与えるかを調査し、プラズマとカビ細胞との相互作用を解明していく.
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