宇宙創成期に刻印された原始重力波起源の宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光Bモードの検出は、現代宇宙物理学の最重要課題の一つである。しかし、宇宙最遠方から来る微弱なCMB偏光Bモードシグナルは、手間にある天体起源のシグナルに埋もれてしまい、それら前景放射との分離精度により検出限界が決まっている。本計画研究では、独自の観測データと海外の観測プロジェクトで得られる最先端のデータを共同解析し、独自に開発した成分分離スキームを用いることで、前景放射とCMB偏光Bモードの分離精度を10倍以上向上し、原始重力波起源の宇宙マイクロ波背景放射偏光Bモードの検出限界を10倍以上向上することが目的である。 分離精度向上の鍵の一つは、銀河系内ダストの放射スペクトル分布の決定精度の向上にある。これを目的として赤外線観測衛星「あかり」の全天探査データの解析を本研究の柱の一つとして行ってきた。昨年末に「あかり」遠赤外線全天地図第一版を完成しチーム内公開を始めた。この地図の作成は、本科研費で購入した東北大学のハイパフォーマンスコンピューター(HPC)を用いて東北大学にて行った。完成した遠赤外線全天地図から銀河系ダストのスペクトル分布を導出するコードも完成し、既に第一版は完成している。しかし、出来上がった全天地図には顕著な系統誤差が混入していることが判明し、現在「あかり」データから遠赤外線地図を作成するツールの改善を行っている。分離精度向上を最終目標に3次元数値流体シミュレーションを用いた銀河系磁場の3次元構造モデル構築を実施してきた。昨年度は、シミュレーションコードが完成し、先行研究の検証を行った。また、数値シミュレーションで得た磁場モデルを観測量を用いて検証する為の解析スキームの構築を行った。従来、磁場モデルの検証に不向きと考えられていた銀河系内シンクロトロン放射の偏光角分布が、磁場モデルの制限に有効であることを示し、定量的検証法を提案した。本繰り越し金では、震災の影響で学会発表出来なかった二つの講演を9月に行われた日本天文学会での成果発表を行った。
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