研究領域 | 背景放射で拓く宇宙創成の物理―インフレーションからダークエイジまで― |
研究課題/領域番号 |
21111006
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小玉 英雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40161947)
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研究分担者 |
川崎 雅裕 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (50202031)
横山 順一 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50212303)
早田 次郎 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00222076)
辻川 信二 東京理科大学, 理学部, 准教授 (30318802)
向山 信治 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (40396809)
中山 和則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90596652)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 宇宙論 / インフレーション宇宙 / 究極理論 / 超弦理論 / 超重力理論 / CMBゆらぎ / 素粒子論 / 量子重力 |
研究実績の概要 |
本年度の主要な成果は以下の通りである. 1.インフレーションによるゆらぎ生成とCMB観測:最も一般的なスカラ・テンソル理論に基づく模型および2形式場による非等方模型に対してゆらぎ統計を計算。非正準運動項模型によりCMBアノマリーを説明。確率過程法によるゆらぎ高次相関計算法を開発。水素21cm線とCMB非等方性の将来観測によるニュートリノ質量階層性の決定可能性を指摘。 2.超重力理論宇宙模型:ヒグス質量実験値を予言するヒグスインフレーション模型、超重力子問題を回避し高い超対称性の破れスケールと整合的な超重力インフレーション模型を構築。熱浴との相互作用が宇宙再加熱反応および再加熱温度に大きな効果を持つことを指摘。アクシオンドメイン・ウォール進化の数値シミュレーションにより離散対称性をもつモデルが実質的に排除されることを発見。アクシオン等曲率ゆらぎの非ガウス性評価に基づき理論模型を制限。F(R)型超重力理論に基づきインフレーション模型を構築。 3.超弦理論宇宙論:4次元極大超重力理論のSL8型真空をもつゲージ化を解析的に完全分類し、さらに各真空でのモジュライ質量スペクトルを解析的に決定。 IIB型超弦理論の大きな余剰空間コンパクト化により、モジュライ安定化と十分なインフレーションの2つの条件を満たすことが可能であることを示す。 4.原理的諸問題:de Sitter膨張宇宙における相互作用効果による結合定数の時間依存性を具体的に計算。 べき型インフレーション模型において、ゆらぎパワースペクトルへの相互作用のループ量子効果を計算し、赤外発散が残る可能性を発見。赤外発散の初期条件への依存性を発見。正値計量を持つ量子重力理論における自発的Lorentz計量の発生可能性を指摘。非線形有質量重力理論における膨張宇宙解の非等方不安定を発見。磁場生成に基づくインフレーションスケールへの制限を導出。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標としてあげた5つの課題のうち、第1の課題である「様々なインフレーション模型に対するゆらぎの組織的研究」については、目標をほぼ達成した。特に、単インフラトン模型については、世界に先駆けて最も一般的な模型を定式化し、さらにそのゆらぎの振幅、スペクトル、統計性を完全に決定した。また、複数の場が関与するモデルについても、実用上最も重要なアクシオン起源のカーバトン模型についてほぼ完全な解析を行い、観測から理論に対して強い制限がつくことを示した。また、第3の課題である「超重力理論に基づく整合的宇宙模型構築」についても、LHC実験や暗黒物質探査実験の成果と整合的な様々な模型を提案した。さらに、第5の課題についても、非等方インフレーション宇宙模型の成立にとってゲージ場の可換性が重要な要素となることを明らかにするなど興味深い成果があった。最後に、進展が遅かった第4の課題についても、繰り越し経費で開催した国際ワークショップを契機として、超弦理論研究者と宇宙論研究者の共同研究が活発となり、IIB型超弦理論の大余剰空間コンパクト化を中心として、素粒子理論と宇宙理論の両面において整合的な模型の構築に向け大きな進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の終わり近くの3月21日についに、Planck観測衛星の結果が発表された。その内容は、ゆらぎの非ガウス性、パワースペクトルのべき指数、原始重力波と密度ゆらぎの比(テンソル・スカラ比)についての上限、等曲率揺らぎの割合などすべてについてWMAPより強い制限が与えられた。この観測結果とこれまでの理論研究の予言を比較することにより、インフレーション模型およびその背後にある素粒子・重力統一理論を絞り込むことが、当計画研究の最終年度である本年の最重要課題である。これにより、課題2および3がほぼ完了することになる。残る課題は、当計画研究の最終目標である究極理論探査という観点から、超弦理論との関連をさらに追求することである。現在のところ、4次元拡張超重力理論の分類と真空探査、その超弦理論へのアップリフトの探索、ジャイロインフレーションのこれらの理論への埋め込み、大きな余剰次元をもつコンパクト化の具体的な構成とその低エネルギー有効理論・宇宙論の研究の継続が当面の考えられる研究の方向である。
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