研究概要 |
上記研究課題について当初の計画に従って研究を行ったので、平成22年度の成果を報告する。 カタユウレイボヤの受精における自家不和合性には、精子側因子としてPKD1様カチオンチャネル(s-テミス)と、卵側因子として黄膜上のフィブリノーゲン様分子(v-テミス)が重要な役割を果たすことをすでに報告した。このペアは第2染色体の遺伝子座Aと、第7染色体の遺伝子座Bに存在し、両方のアレルにおいて自己であると精子側で識別されると、精子が卵黄膜から離脱して受精が阻害される。 そこで、本研究では、(1)テミス分子のアレルの多様性とその共進化についてまず解析を行なった。AとBの遺伝子座位では進化速度に違いがみられたが、精子側と卵側の因子の多型には共進化の傾向が確認された。(2)遺伝子座Bにはs/v-テミス-Bが2ペア存在する可能性が指摘されていたが、ゲノムのミスアノーテーションによる可能性も考えられていた。そこで今回、遺伝子座Bのゲノム配列を決定しなおしたところ、そこには確かに2ペアのs/v-テミス-B(様因子)が存在することが初めて確認された。卵黄膜上にもこの2種類のv-テミス-Bが共存していたことから、このアロ認識因子を新規因子としてs/v-テミス-Cと命名した。s/v-テミス-Cも多型に富み,そのハプロタイプに関する知見も得た。(3)精子細胞内での自己認識シグナルに関しては今まで不明であったが、精子が自己の卵黄膜に結合した時のみ、細胞内カルシウム濃度が急激に上昇することを明らかにした。これはs-テミスがカルシウムチャンネルとして機能している可能性を示唆している。
|