計画研究
カタユウレイボヤの受精における自家不和合性には、精子側因子としてPKD1様カチオンチャネル(s-テミス)、また卵側因子として黄膜上のフィブリノーゲン様分子(v-テミス)が重要な役割を果たすことを報告している。この分子ペアは第2染色体の遺伝子座Aと、第7染色体の遺伝子座Bに存在し、精子側で両アレルが自己と識別されるとCa^<2+>流入がおこり、精子が卵黄膜から離脱するか運動性を停止させ、受精が阻害される。平成23年度は次のことを検討し、新知見が得られた。(1)s-テミス-Aとs-テミス-Bの局在性を免疫染色法で解析した。両者とも精子頭部先端と尾部に共局在することが示された。また、Ca^<2+>イオノフォア処理すると、細胞膜表面上のテミスは消失するが、細胞内ドメインは消失しないことから、自己シグナルが働き精子細胞内Ca^<2+>濃度の上昇がおこると、s-テミスの細胞外領域がタンパク分解される可能性が示された。自己と認識されると解離する現象を説明しうるもので興味深い。(2)v-テミスとs-テミスのタンパク質間の結合を、生化学的および分子生物学的方法を用いて解析したが、現在のところ特異的結合は確認されておらず、糖鎖等の関わりを今後検討する必要がある。(3)新規アロ認識分子s/v-テミス-Cも発見され、それが多型にとみ、卵黄膜に存在していることが示された。この分子がアロ認識に関わるか否かを遺伝学的に検討している。(4)カタユウレイボヤ卵は酸処理すると自家受精可能になり、酸抽出物で精子を前処理すると受精が阻害される。v-テミスは酸処理で遊離されないことから、酸処理で卵黄膜から遊離する成分もアロ認識に関わる可能性がある。この酸処理抽出液の主成分は、v-Themis-like proteinと名付けた多型の見られないタンパク質で、今回そのクローニングと構造解析を行った。現在機能解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
s-テミスとv-テミスとの相互作用に関して、酵母ツーハイブリッド法で解析したが、糖鎖が関わるためなのか、酵母細胞内では特異的結合は確認できなかった。しかし、そのような結果は、想定内の結果であり、研究全体としては、「概ね順調に進展している」と自己評価している。
カタユウレイボヤを用いて、テミス-Cが自己非自己認識に本当に関わるか否かを、遺伝学的解析により明らかにする。s-テミスとv-テミスとの相互作用を分子生物学的、生化学的に解析し、自己のタンパク質のみを特異的に認識するか否かを解析する。また、マボヤにおけるテミスやユウレイボヤにおけるテミスの構造と多型を解析し、これらの種の受精において、このテミスが関与するか否かを明らかにする。
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