計画研究
被子植物の多くは、自家不和合性として知られるアロ認識機構を有し、遺伝的に異なる同種異個体と選択的に受精することで、種の遺伝的多様性を維持している。申請者は、アブラナ科植物において、このアロ認識が花粉表層のSP11リガンドと雌ずい乳頭細胞膜上のSRK/MLPK受容体複合体との相互作用を介して行われていることを明らかにしてきた。さらに最近、自家受粉時の乳頭細胞内で、Ca^<2+>濃度の急激な上昇とアクチンの脱重合が起きることを明らかにした。Ca^<2+>濃度の上昇とアクチンの脱重合はこれまで異なるアロ認識機構を持つとされてきたケシ科植物の自家受粉時の花粉内でも観察されており、さらに本領域代表者の澤田らにより原索動物ホヤのアロ認識にもCa^<2+>の関与が見出されたことから、申請者は動植物のアロ認識に共通する機構としてCa^<2+>シグナリング系の関与を提案している。そこで、本研究では特にCa^<2+>シグナリング系に着目し、乳頭細胞内にSRK/MLPK受容体のリン酸化という形で伝えられた自己花粉の情報がいかにしてCa^<2+>濃度の上昇を引き起こすのか、またこの上昇がいかにしてアクチンの脱重合を引き起こし、自家花粉の吸水・発芽を阻害するのか、アブラナ科植物のアロ認識機構の全貌を明らかにすることを目的とする。今年度までの研究により、自家不和合性を付与したシロイヌナズナを利用して、乳頭細胞特異的発現遺伝子群や和合・不和合受粉時特異的発現遺伝子群を同定した。また、新規の乳頭細胞Ca^<2+>モニタリング系や、乳頭細胞プロトプラストによる薬理学的解析系の構築に成功した。その結果、自家受粉時には、SRKとSP11との相互作用により乳頭細胞内でCa^<2+>濃度上昇が引き起こされることと、Ca^<2+>濃度上昇が直接自己花粉の拒絶を誘導することを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
マイクロダイセクション・マイクロアレイ解析による乳頭細胞特異的発現遺伝子群や和合・不和合受粉時特異的発現遺伝子群の同定に時間を要したために、候補遺伝子の機能解析が若干遅れている。しかし一方で、乳頭細胞プロトプラストの調製に成功し、in vitro実験系が構築できたことから、動物細胞のCa^<2+>シグナリング実験と同様な薬理学的解析が可能になった。これにより、Ca^<2+>シグナリング系に関与する分子の同定が順調に進むことが期待できる。
本申請では、以下の解析を行い、アブラナ科植物のアロ認識機構の全容を明らかにすると共に、動植物のアロ認識機構の共通点と相違点を明らかにする。1)乳頭細胞プロトプラストとレーザーマイクロインジェクション法による薬理学的解析によりアロ認識時におけるCa^<2+>輸送体の性状を明らかにする。2)マイクロダイセクション・マイクロアレイ解析で同定されたアロ認識情報伝達系の候補遺伝子について、候補遺伝子破壊株の作成と表現型解析、GFPモニタリングによる候補分子の挙動解析、FRET・BiFCによる候補分子とMLPK/SRKとの相互作用解析、免疫電顕による候補分子の局在解析を行ない、アロ認識との関連を調べる。3)EMS処理した自家不和合性シロイヌナズナについて、自家和合復帰突然変異体の探索を行ない、得られた変異体についてタイリングアレイを行なうことにより、原因遺伝子の同定を行なう。4)リン酸化タンパク質や細胞膜マイクロドメイン構成タンパク質のプロテオミクス解析により、アロ認識のシグナル伝達に関わるタンパク質について生化学的探索を行なう。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件)
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