計画研究
雌性生殖器で起こる精子認証機構に関する研究を行い、次のような成果を得た。まず、精子表層タンパク質ADAM3と相互作用する雌性側の因子を同定するために、大腸菌で発現させた組換え型ADAM3をベイトとして、目的の候補タンパク質Xを見いだした。そのタンパク質は、オルタナティブスプライシングによってひとつの遺伝子から2種類の転写翻訳物(long formとshort form)を生成していた。Long formはIgドメインとフィブロネクチンドメインを含む膜貫通タンパク質であり、short formはIgドメインだけから構成されていた。また、long formは卵管や子宮の上皮細胞に局在していたが、short formは部分的に細胞外へ分泌されていた。プルダウンアッセイによって、タンパク質XはIgドメインを介してADAM3と結合しており、特にADAM3のシステインリッチドメインとEGF様ドメインがその結合に関与していることも明らかになった。さらに、精子とタンパク質Xのshort formの相互作用を調べたところ、野生型精子と比較してADAM3欠損精子への結合が有意に減少していた。以上の結果から、これら2形態のタンパク質XがADAM3との相互作用を通して精子の子宮卵管接合部から卵管への移動に関与していることが示唆された。現在、そのノックアウトマウスを作製し、最終的な結論を得ることを試みている。
2: おおむね順調に進展している
この研究課題の当初目的は、精子が子宮から子宮卵管接合部、卵管峡部を経由して卵管膨大部へ移動する過程に焦点を絞って、雌性生殖器で起こる認証システムによって精子がどのように受容または排除されているのかを解明することであった。また、哺乳動物での精子認証システムを海産動物や植物のものと比較検討し、生物界でのアロ認証の仕組みに関する共通性と多様性を総括的に理解することも計画されていた。現時点で自己点検すると、マウスの雌性生殖器内で起こる精子認証システムに関しては、新規タンパク質因子を同定するなど一定の実績があがっていると考えられる。また、精子プロテアソームについてもマウスとホヤなどの海産動物での機能を比較検討し、ある一定の成果が得られている。しかし、植物プロテアソームに関する情報が乏しく、その点に関しては今後の課題である。
この研究計画の変更や研究を遂行する上での問題点などは、特にないと考えている。雌性生殖器内での精子認証システムで機能すると思われる遺伝子のノックアウトマウス作製が大幅に遅れているが、業者委託などによって複数の方向から進めていく方策もあると考えられる。加えて、学術論文の投稿と掲載もやや遅れている。大学では雑務が多く時間的に飽和状態になっているが、なんとか克服するつもりである。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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http://www.acroman.org/