計画研究
受精での精子によるプロテオリシスの意義を明確にするために、精子プロテアソームに関して検討を加えた。典型的な26Sプロテアソームと異なり、精子は通常のサブユニットPSMA7が別のサブユニットで置換された特異的なプロテアソームを含有していることが明確になった。この新規プロテアソームは精子後頭部の表層に存在しており、体外受精試験によって精子の卵子透明帯通過で機能していることが明らかになった。しかし、海産動物の場合といくつかの点で異なっており、精子プロテアソームが動物種によって機能的に多様化していることが示唆された。すなわち、(1)哺乳動物ではプロテアソームが精子アクロソームには含まれていないこと、(2)一般的な基質であるユビキチン化されたタンパク質は透明帯ではなく卵子細胞膜に存在すること、(3)精子プロテアソームの作用点は受精時ではなく、おもに精巣上体での精子成熟時であること、さらに(4)精巣上体では容易に精子から遊離されていることなどが明らかになった。現在、この精子特異的プロテアソームサブユニットのノックアウトマウスを作製して詳しい機能解析を試みている。他方、精子表層タンパク質ADAM3と相互作用する卵管上皮細胞膜タンパク質の機能解析を行うために、そのノックアウトマウスをES細胞経由での遺伝子相同組換え法で作製することを試みたが良好な結果を得ることができなかった。しかし、ADAM3と相互作用する領域はある程度同定できたので、今後はその領域を発現するトランスジェニックマウス作製などを通して機能解析を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
この研究課題の当初目的は、精子が子宮から子宮卵管接合部、卵管峡部を経由して卵管膨大部へ移動する過程に焦点を絞って、雌性生殖器で起こる認証システムによって精子がどのように受容または排除されているのかを解明することであった。また、哺乳動物での精子認証システムを海産動物や植物のものと比較検討し、生物界でのアロ認証の仕組みに関する共通性と多様性を総括的に理解することも計画されていた。現時点で自己点検すると、マウスの雌性生殖器内で起こる精子認証システムに関しては、新規タンパク質因子を同定するなど一定の実績があがっていると考えられる。また、精子プロテアソームについてもマウスとホヤなどの海産動物での機能を比較検討し、ある一定の成果が得られていると判断している。
この研究計画の変更や研究を遂行する上での問題点などは特になく、研究実施の最終年度に向けて総括する段階にきていると考えている。雌性生殖器内での精子認証システムで機能すると思われる遺伝子のノックアウトマウス作製が大幅に遅れているが、新しい方法を駆使して異なる方向から進めていく予定である。加えて、学術論文の投稿と掲載にも十分に時間を費やすつもりである。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Biol. Reprod
巻: 88 ページ: 105, 1-8
10.1095/biolreprod.112.107425
J. Reprod. Dev.
巻: 58 ページ: 330-337
http://www.acroman.org/