計画研究
被子植物の配偶子の細胞融合過程については、「どのような機構で2個の精細胞がそれぞれ卵細胞と中心細胞と融合(受精)するのか」という植物の受精の本質的な現象に対する知見は非常に少ない。本課題は、イネ単離配偶子を材料として、in vitro受精系、1細胞分子生物学、高感度オーム解析、レーザーマイクロインジェクションによる配偶子操作などの手法を駆使し、植物における配偶子認識および膜融合過程の分子基盤を明らかにするとともに、動物の配偶子融合機構研究者と双方向の研究を推進することで、動植物の配偶子融合機構を統合的に理解することを目的とする。今年度は、イネ精細胞、卵細胞、受精卵のトランスクリプトーム解析データから得られた約300個の配偶子高発現遺伝子について、TOS17トランスポゾン挿入変異体が存在する57ラインの種子を発芽・生育させて稔実率を詳細に調べた結果、生殖過程に異常がある可能性が高い変異体が7ライン得られた。この中のうちの一つは、海産動物の精子誘因に働くことが知られているCO_2のトランスポーターをコードする遺伝子への挿入変異体であった。さらに、胚嚢内に放出される2個の精細胞が異質であるのか、または同質であるのかという点を明らかにするため、1つの花粉から放出された2個の精細胞をそれぞれ単離したのち、単一細胞トランスクリプトーム解析を行い、2個の精細胞ペア間で発現に違いがある遺伝子の同定を試みた。8ペア(8反復)について解析を行ったところ、8ペア中7ペア間で発現量が5倍以上異なる遺伝子が16個見つかった。現在、それら遺伝子が本当に花粉中の2個の精細胞の一方でのみに発現しているか否か検証するため、In situハイブリダイゼーション解析を進めている。また、核の合一過程の解析に向け、卵細胞の核、核膜、アクチン繊維、および精細胞の核、核膜を蛍光タンパク質で可視化した遺伝子組換え体を作製した。
2: おおむね順調に進展している
単一細胞トランスクリプトーム解析には相対的遺伝子発現比を保ったままcDNAを増幅することが重要となる。イネ精細胞1個からのcDNA増幅を、既に手法が確立している卵細胞1個からのcDNA増幅法に準じて行ったが、精細胞1個に含まれるRNA量が卵細胞のそれと比べて約1/100であったことから、cDNA増幅の条件検討に予想以上の期間がかかった。その後のアレイチップ解析は順調に進んだが、この項目の研究は当初予定から半年ほど遅れていると考えている。また、イネ配偶子の網羅的プロテオーム解析を当初の計画通りショットガン法で進めたところ、精細胞の解析は計画通り進んだが、卵細胞は300個および350個の細胞を用いた2回の解析においてタンパク質(ペプチド)がほとんど同定されなかった。この原因を調べたところ、プロテアーゼ処理後サンプルの酸沈殿産物の再溶解ステップにおいて、ペプチドが卵細胞中に多く含まれるデンプンの影響で不溶化している可能性が高いことが判明したため、卵細胞溶解液をSDS-PAGEで展開したのちにそのゲルバンドを解析する手法へ変更した。その結果、約1,300種もの卵細胞タンパク質の同定が可能となった。
配偶子融合機構に関与する分子の同定同定された7遺伝子について、それらの遺伝子が生殖過程のどのステップにおいて機能しているのか明らかにする。受精過程に関与すると判断された遺伝子については、その配偶子内における細胞内局在性を明らかにした上で、その翻訳産物が配偶子の接着、膜融合、核の合一などいずれの受精過程で機能しているかを明らかにする。さらには、配偶子融合因子のリガンドもしくは受容体を、単離配偶子の生化学的およびMS/MS解析により同定する。これらに加えて、イネ配偶子プロテオームおよび中央細胞トランスクリプトーム解析の結果をもとに、イネTOS17変異体およびマラリア遺伝子破壊株を用いたスクリーニングを継続する。同一花粉内の2個の精細胞の異質性の検討1花粉中の2個の精細胞間で発現量に違いがあると考えられた16の候補遺伝子についてIn situハイブリダイゼーション解析を行い、実際に1花粉内に遺伝子発現様式が異なる2種の精細胞が存在するのか否かを決定する。異質性が示された際は、一方の精細胞にのみ強く発現する遺伝子のプロモーター下でGFPを発現する形質転換イネを作製し、それら組換え体およびイネ配偶子融合系を用いて、2種の精細胞が卵細胞および中央細胞と分別されて接着・融合する可能性を検証する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Methods in Molecular Biology
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http://www.biol.se.tmu.ac.jp/labo.asp?ID=horcel