計画研究
受精による卵細胞から受精卵への変換は、雌雄配偶子の細胞膜の融合とそれに引き続く核の合一により完遂するが、被子植物においては、それら受精の本質的な現象に対する知見は非常に少ない。本申請課題は、イネ単離配偶子を材料として、in vitro 受精系、1細胞分子生物学、高感度オーム解析、レーザーマイクロインジェクションによる配偶子操作などの手法を駆使し、植物における配偶子認識、膜融合過程および核合一の分子基盤を明らかにするとともに、動物の配偶子融合機構研究者と双方向の研究を推進することで、動植物の配偶子融合機構を統合的に理解することを目的とする。(1) 配偶子および受精卵のオーム解析:卵細胞および精細胞の高感度プロテオーム解析により、植物配偶子中のタンパク質の網羅的検出、および、配偶子特異的に存在するタンパク質の同定に成功した。さらに、これらタンパク質の機能解析に向けて、それらタンパク質をコードする遺伝子への挿入変異体を用いた解析を進め、生殖過程に異常がある可能性が高い変異体として5ラインが選抜された。(2) 同一花粉内の2個の精細胞間における異質性の検討: 1花粉中の2個の精細胞間で発現量に違いがあると考えられた16の候補遺伝子のうち数個の遺伝子についてIn situ ハイブリダイゼーション解析を行ったが、精細胞中におけるそれら遺伝子の発現の確認には至らなかった。(3) 核の合一過程の動態観察および実験発生学的解析:ヒストンH2B-GFPまたはH2B-RFPタンパク質を発現する形質転換イネから配偶子を単離したのち、in vitro受精法により受精卵を作製し、核合一の過程を詳細に観察した。また、核の合一過程および卵細胞の正常活性化を促進させる因子が精細胞内に存在することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本申請課題は、主に下記の3研究項目から成り立っており、総合的に判断するとおおむね順調に進行していると考えている。以下に、各項目の進捗度について記載する。(1) 配偶子および受精卵のオーム解析:卵細胞、精細胞、受精卵のトランスクリプトーム解析、および卵細胞および精細胞の高感度プロテオーム解析により、配偶子特異的に発現する遺伝子・タンパク質、および受精により発現が誘導・抑制される遺伝子が同定され、それら遺伝子に対する変異体解析などにより、生殖過程に関与する可能性が高い遺伝子・タンパク質候補が数個得られてきている。これらのことから、この項目はおおむね順調に進行していると考えている。(2) 同一花粉内の2個の精細胞間における異質性の検討: 1花粉中の2個の精細胞間で発現量に違いがあると考えられた16の候補遺伝子のうち数個の遺伝子についてIn situ ハイブリダイゼーション解析を行ったが、精細胞中におけるそれら遺伝子の発現の確認には至っていない。これは、解析対象遺伝子の発現自体があまり強くないこと、および/または、精細胞自体の細胞サイズが非常に小さいことなどに起因すると推定される。この項目は計画よりも大幅に遅れていると考えている。今後は、TSA法などの高感度な検出法も考慮に入れて解析を進める予定である。(3) 核の合一過程の動態観察および実験発生学的解析:配偶子融合20~40分後には精細胞核が卵細胞核へ到達して接するようになり、その後、核膜同士の融合がすみやかに進行するという核合一の動態を捉えたのに加え、核の合一過程および卵細胞の正常活性化を促進させる因子が精細胞内に存在することを示唆する解析結果が得られている。この項目ついては、予想以上の結果が得られつつあると考えている。
(1)配偶子および受精卵のオーム解析:生殖過程に関与する可能性が高い遺伝子・タンパク質候補が数個得られてきている。まず、それら遺伝子に対する変異体の生殖過程のどのステップに異常を生じているのかを決定し、さらに、当該ステップでそれら遺伝子・タンパク質がどのように機能しているのかを明らかにしてゆく。また、受精卵の活性化や初期発生に関与すると考えられる遺伝子も同定されていることから、それらに対する機能解析も進める。(2) 同一花粉内の2個の精細胞間における異質性の検討: 16の候補遺伝子のうち発現量が最も高い遺伝子に対して、TSA法などの検出法を組み合わせた高感度In situ ハイブリダイゼーション解析を行うことにより、精細胞内における遺伝子発現検出系をまず確立する。その後、花粉内の精細胞間における遺伝子の発現差の検出を試みる。(3)核の合一過程の動態観察および実験発生学的解析:昨年度までに、核の合一過程および卵細胞の正常活性化を促進させる因子が精細胞内に存在することを示唆する解析結果が得られている。本年度は、電気融合によるイネ卵細胞、精細胞、体細胞由来の融合細胞の作製、および、融合細胞中における核の動態観察などにより、これら因子の存在の有無を明らかにする。それらの存在が確認された際は、精細胞内に存在が推定される当該因子の同定に向けた実験系の条件検討および確立を行い、精細胞の細胞質、核、各種オルガネラのいずれの画分に核融合制御関連分子が存在するのかを明らかにする。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Journal of Experimental Botany
巻: 64 ページ: 1927-1940
10.1093/jxb/ert054
http://www.biol.se.tmu.ac.jp/labo.asp?ID=horcel