受精による卵細胞から受精卵への変換は、雌雄配偶子の細胞膜の融合とそれに引き続く核の合一により完遂するが、被子植物においては、それら受精の本質的な現象に対する知見は少ない。本研究は、イネ単離配偶子を材料として、in vitro 受精系、1細胞分子生物学、高感度オーム解析、レーザーマイクロインジェクションによる配偶子操作などの手法を駆使し、植物における配偶子認識、膜融合過程および核合一の分子基盤を明らかにすることを目的とした。 (1) 配偶子および受精卵のオーム解析:卵細胞、精細胞、受精卵のトランスクリプトーム解析により、配偶子特異的に発現する遺伝子、および受精により発現が誘導・抑制される遺伝子を同定し、また、卵細胞および精細胞の高感度プロテオーム解析により、植物配偶子中のタンパク質の網羅的検出、および、配偶子特異的に存在するタンパク質の同定に成功した。さらに、それら遺伝子、またはタンパク質をコードする遺伝子への挿入変異体を用いた解析を進め、生殖過程に異常がある可能性が高い変異体として数ラインを選抜した。現在、これらの変異体を用いた交配実験および当該遺伝子・タンパク質の機能解析を進めている。 (2) 核の合一過程の動態観察および実験発生学的解析:ヒストンH2B-GFPまたはH2B-RFPタンパク質を発現する形質転換イネから配偶子を単離したのち、in vitro受精法により受精卵を作製し、核の合一過程を詳細に観察することに成功した。その結果、配偶子融合5~10分後には精細胞核が卵細胞核へ到達して接するようになり、その後、核膜同士の融合がすみやかに進行すると考えられた。また、融合核内においては、まず卵核中のクロマチンが一様に拡散したのち、精核中のクロマチンの脱凝集が進行することが示された。さらには、核の合一過程および卵細胞の正常活性化を促進させる因子が精細胞内に存在することを示唆する解析結果が得られた。
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