本研究の目的は、植物受精の分子メカニズムを解析する中で動物受精にも共通する機構を見出し、生物受精の中核的な共通システムを明らかにすることを目的としている。これまでの研究成果として見いだされた高等植物受精因子GCS1(GENERATIVE CELL SPECIFIC 1)は花粉内の雄性配偶子表面で特異的に発現する新規の膜貫通型タンパク質であることが示されており、高等植物の配偶子融合がタンパク質分子によって決定づけられていることを明らかにした世界初の分子である。興味深いことに、GCS1は高等植物のみならず、原生生物(藻類、アメーバ、マラリア原虫など)・無脊椎動物(節足動物・刺胞動物・海綿動物など)にも保存されていることが分かっている。平成25年度は、前年度以前に新たに見いだされた雄性配偶子側受精因子Y47の分子構造・機能の解析を行った。その結果、Y47は機能未知の雄性配偶子特異的タンパク質GEX2であることがわかった。同分子は、ほ乳類の精子側受精因子IZUMO1や緑藻の接合因子であるFUS1と同様にイムノグロブリン(Ig)様ドメインを有することが明らかとなり、分子機能の動植物・原生生物共通性が期待された。胚珠内の未受精GEX2変異精細胞と雌性配偶子(卵細胞・中央細胞)との相互作用異常をより詳細に観察するために、受粉後胚珠内の組織をプロトプラスト化する新規の手法を開発した。その結果、GEX2変異精細胞は雌性配偶子に接着することができず、配偶子融合が不安定になるという新たな表現型が確認された。この結果から、GEX2はこれまで未知であった被子植物配偶子の接着機構であることが示唆された。今年度は、同じ領域内の井上直和計画班員もIZUMO1の配偶子接着機能を示しており、GEX2はその分子構造・機能ともにIZUMO1のアナログであり、動植物共通の配偶子接着機構の存在を示唆した。
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