研究領域 | 天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現 |
研究課題/領域番号 |
21113002
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 衛 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (60170784)
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研究分担者 |
安藤 敏夫 金沢大学, 数物科学系, 教授 (50184320)
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キーワード | X線小角散乱 / 中性子小角散乱 / 分子動力学シミュレーション / X線結晶構造解析 / 高速原子間力顕微鏡 / FliK / MeCP2 / ダイナミクス |
研究概要 |
X線小角散乱法(SAXS法)による動的構造解析では、古細菌由来Hefタンパク質(ヘリカーゼドメインとヌクレアーゼドメインの2つのドメインから構成され、その間に約100残基の天然変性領域IDRが存在するタンパク質)のSAXSデータを収集し、2面角データベースから600,000のHefIDR構造を抽出してHef全長構造を構築し、収集したSAXSデータを用いてExtended MD-SAXS法による動的構造解析を行った。さらに、PCNAと相互作用するHef-IDRに着目し、中性子小角散乱法を用いてHef-IDRがPCNAとの結合に伴う構造変化(誘起)を解析した。その結果、Hef-IDRはその中央部分にあるPCNA結合モチーフであるPIP boxの領域は高次構造が誘起されているが、それ以外の大部分はPCNAと結合しても天然変性状態のままであることが明らかとなり、この構造の柔軟性がHefの機能あるいは、他のDNA修復因子との相互作用において重要な役割を果たすことが示唆された。 一方、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)による天然変性領域の動態解析の研究では、ID領域と非ID領域の同定をNMR解析が進んでいるPQBP-1を標準試料として調べ、高速AFM解析の信頼性をまず確認した。何種類かのIDPの高速AFM観察を進めたが、特に、べん毛のHookの長さに関係すると言われているFliKとRett症候群に関与するMethyl CpG Binding Protein 2(MeCP2)について多くの観察を行った。FliKではN端とC端にある球状ドメインがID領域で連結されている構造が観察されるが、N端側半分のコンストラクトでは驚いたことにかなりID構造となっており、この結果はNMRのデータと一致する。MeCP2については、1次構造とID領域、非ID領域との関係を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MD-SAXS法によるIDタンパク質の動的構造解析では、これまでに(1)タンパク質の原子モデルから水和構造を考慮してSAXS強度を理論的に計算する手法,(2)アミノ酸の2面角データベースを用いたID領域の高速構造構築法とMDを組み合わせる手法,(3)作成した動的構造モデルに実験情報を加味するために、モデルからMD-SAXS法を用いて理論的にSAXS強度を計算し、それが実験SAXSデータと一致するように動的構造モデルを精密化する手法を開発してきた。また、高速AFMによるIDタンパク質の動態解析では、新しい振幅計測法を導入して装置のノイズ低減化を図るとともに、IDタンパク質を含む種々のタンパク質の観察に適した基板や溶液条件を検討した。その結果、世界最高性能の高速AFMの開発に成功し、領域内の計画研究および公募研究のグループが対象とするIDタンパク質およびID領域を有するマルチドメインタンパク質の動態解析を行ってきた。以上のように、当該研究はおおむね当初計画どおりに順調に進展しているものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
高速AFMにおける天然変性タンパク質の動態解析について「高速AFMは基板との人為的な相互作用の影響などの問題があり、生物学的に意味のある成果が出ているのかを疑問視する意見もあった」との中間評価のコメントがあった。このコメントに対しては、MD-SAXS法では10^<12>のタンパク質分子からのX線散乱を解析するので、高速AFMのようにタンパク質1分子の動的挙動は解析できないが、溶液状態という生理的条件に近い環境でタンパク質分子の動的挙動が解析できるという特長があるので、今後はMD・SAXS法と高速AFM法の両手法を相補的に利用し、互いの欠点を補いながら両手法の開発・高度化を推進していきたいと考えている。
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