研究領域 | 天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現 |
研究課題/領域番号 |
21113002
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 衛 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (60170784)
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研究分担者 |
安藤 敏夫 金沢大学, 数物科学系, 教授 (50184320)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | X線小角散乱 / 中性子小角散乱 / 分子動力学シミュレーション / X線結晶構造解析 / 高速AFM / Order-Disorder遷移 / 動的構造 / 維持長 |
研究実績の概要 |
X線小角散乱法(SAXS法)による動的構造解析では、シミュレーションにより得られるモデル構造が非常に多くそれを制限する実測のSAXSデータが不十分であることからOver-fittingが大きな問題となっている。そこで、本年度は残余化学シフト異方性(RDC)や天然変性領域の二面角情報などSAXSと補完的な構造情報が得られるNMRに着目し、NMR による構造情報の収集によりOver-fittingの問題の解決を図った。その結果、古細菌由来Hefタンパク質を対象に、全長HefのSAXSデータと二次元NMRデータを収集するとともに、Hefの天然変性領域(Hef-IDR)の3次元NMRデータの収集と連鎖帰属を行い、予備的な二面角情報の取得に成功した。 一方、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)による天然変性領域の動態解析の研究では、FACTタンパク質について、ID領域の燐酸化に伴う構造変化を捉え、NMR解析の結果と矛盾しないことを確認し、論文にまとめた。ウィルスのNucleoタンパク質、Phosphoタンパク質、メチル化DNA結合タンパク質MeCP2、細菌べん毛フックの長さを決めると言われているFliKなどについてID領域、Ordered領域の配置、及び、ID領域の動的構造を解析した。既に多くのID領域の観察結果を得たので、それらの力学特性をミクロスコピックな維持長で表した結果、種類に依らずほぼ一定の値をもつことが示され、ID領域の柔らかさはアミノ酸配列に依らずほぼ一定になっているという普遍的な結論を得た。FliKについては、フック長を決めるに相応しい機構を示唆する結果を得た。すなわち、短いIDを挟む共にOrderしたN末、C末領域の間の相互作用が失われると、N端領域はOrderからDisorderし、長いID領域となるという可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線小角散乱法(SAXS法)による動的構造解析では、古細菌由来Hefタンパク質を対象に分子動力学計算を併用しながら研究を行ってきたが、シミュレーションにより得られるモデル構造が非常に多く、それを制限するために必要な実測のSAXSデータが不十分するという当初予測していなかった問題が生じた。この問題は三次元NMRデータと連鎖帰属、及び予備的な二面角データに加えることで解決できる見通しがたち順調に研究が再開されながら進行している。 一方、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)による天然変性領域の動態解析の研究では、多くの天然変性タンパク質試料系の高速AFM観察が進み、天然変性領域がもつ普遍的力学的性質が見出されるとともに、燐酸化による秩序化、タンパク質間相互作用に伴うOrder-Disorder平衡の遷移など、これまでの構造解析手段では得難い解析に成功し、順調に研究は進展している
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今後の研究の推進方策 |
X線小角散乱法(SAXS法)による動的構造解析では、古細菌由来Hefタンパク質についてシミュレーションにより得られたモデル構造のアンサンブルを実測のSAXSデータを再現できるように最適化することで、Hefタンパク質が溶液中で取り得る立体構造を決定する。このとき、シミュレーションにより得られるモデル構造が極めて多数であることから、それを制限するために必要な実測のSAXSデータから得られる構造情報が不十分で、その結果としてOver-fittingが避けられない問題となった。そこで、収集した全長Hefの二次元NMRデータ、Hef-IDR領域の三次元NMRデータと連鎖帰属、及び予備的な二面角データに加えて、全長Hefを用いて天然変性領域の二面角情報の取得とRDCを測定し、構造アンサンブルを最適化し、全長HefのSAXSデータと合わせて全長Hefの最終的な構造アンサンブル(=全長Hefの原子レベルの動的構造)を決定する。 一方、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)による天然変性領域の動態解析の研究では、従来の構造解析手法では解析が困難な天然変性タンパク質に対して、その構造解析に向けて高速AFM装置、及び、試料系側にどのような改良を加えるべきかを検討するとともに、高速AFMという新しい構造解析手法が有効であることを実証することが本研究の大きな目標であった。技術的にはほぼ完成の域にあり、天然変性タンパク質の構造解析も進んでいる。しかし、得られた解析結果が基板の影響を受けている可能性を完全には除去できない。それ故、NMRなどの手法での解析結果との一致を更に多くの試料系で確認する必要がある。
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