研究領域 | 天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現 |
研究課題/領域番号 |
21113004
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
柴田 武彦 独立行政法人理化学研究所, 遺伝制御科学特別研究ユニット, ユニットリーダー (70087550)
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研究分担者 |
新井 直人 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (70297795)
草野 好司 京都工芸繊維大学, 遺伝資源キュレーター教育研究センター, 特任教授 (70336098)
香川 亘 明星大学, 理工学部, 准教授 (70415123)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 天然変性領域 / 相同DNA組換え / 相同DNA対合 / 組換え酵素 / RecA型組換え酵素 / RecA蛋白質 |
研究実績の概要 |
Rad51が主要組換え酵素として働く相同(DNA)組換えの初期過程に働く蛋白質の多くがもつ天然変性領域(IDR)の分子機能と遺伝機能を明らかにして、相同組換えに働く普遍的な機構と原理を明らかにする。 草野は、昨年度までの研究で、交叉を伴わないSDSA経路での相同組換えと非相同的末端結合(NHEJ)とを、交叉を伴うホリデー中間体を経由する相同組換えと区別して特異的に測定できる独自のアッセイ系を開発し、Srs2が交叉を抑制する一方SDSA経路を促進することを明らかにした。このアッセイ系を用いて、Srs2のIDR領域にあるRad51、およびPCNA (DNA合成酵素δのスライディングクランプ)との相互作用部位へ導入した変異の組換えへの効果を解析したところ、Rad51がNHEJにも働くRad52とSRS2をエラーしがちなNHEJから正確にDNA二本鎖切断を修復できるSDSAへ振り向けるという新規な機能が示された。現在その詳細な解析を進めている。 組換えにおいて多面的に機能するRad52は種間で保存されたDNA結合部位をもつN末端領域と主にIDRであるC末端からなる。N末端保存領域から分離したC末端IDRは単独でRad51へ結合し、Rad51の重合を阻害することを明らかにした。 相同組換えの要に働くRad51とRecAにはN末端部に共通するドメインがある。RecAの対応するドメインは典型的なIDRの特徴をもつ。RecAの当該部分は、RecAの重合制御に働き、RecAの組換えでの多面的な機能に深く関わると推定される。そこで、RecAのIDR領域に対応する部位でRad51プロトマー間の相互作用に働くと推定される2つのアミノ酸残基の置換の効果を解析した結果、一方は目立った影響がなかった。一方、他方のアミノ酸残基はRad51の組換え酵素としての細胞機能、分子機能に必須であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新たに開発したSDSA経路での相同組換えと非相同的末端結合(NHEJ)を特異的に測定できる初めてのアッセイ系は、これまで知られていなかったRad51とSrs2のIDRの機能を次々に明らかにしてしつゝある。特に、SDSA経路による相同組換えと、交叉型相同組換えやNHEJとの間をとりもち、栄養増殖期細胞では発がん等の原因になるLOH(ヘテロ接合の喪失)を招く交叉型相同組換えや変異を招くNHEJを抑制し、正確な修復ができるSDSA経路でのDNA二本鎖切断を保証する機構が明らかになりつつある。一方、Rad52のN末端側保存領域とC末端IDRとが、それぞれ独立して担っている機能が分かってきた。これらは当初予測していたことを超えている。
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今後の研究の推進方策 |
DNAヘリカーゼIDRのSDSA経路での組換え促進と交叉抑制の機構を解明するために、Srs2の、Rad51を初めとする組換えに働く蛋白質との相互作用部位へ導入した変異の、相同組換えへの影響を非交叉型組換え体だけを生じるSDSA経路、交叉型組換え体も生じるDNA二本鎖切断修復経路、NHEJについて、経路毎に解析する。また、Rad51が作用する切断末端単鎖領域の形成(リセクション)機構へのDNAヘリカーゼの関与と、そのIDRの役割を分子レベルで解析する。 Rad52のC末端IDRについては、一昨年度明らかにしたRad51と相互作用するアミノ酸の置換導入により、その相互作用のRad51組換え酵素による相同組換えへの影響を細胞レベルで解析すると同時に試験管内で解析する。同時に、Rad52の種間で保存されているN末端DNA結合領域とC末端IDRが機能的にどこまで独立でどこから共同作用を持つのかを明らかにすることでRad52の相同組換えでの機能とその分子機構の理解を深める。 Rad51のN末端側IDRの機能については、昨年度に引き続き、RecAと比較しつゝ、IDRの部位への変異導入や過剰発現による自身の組換え機能への影響と、Rad52等の蛋白質やDNAとの相互作用による組換え機能への効果を、試験管内、細胞レベルの両面で解析する。以上のRad51を中心とする相同的組換えの初期過程でのIDRでの蛋白質間相互作用の機能のネットワークへの理解を深める。
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