研究領域 | 天然変性タンパク質の分子認識機構と機能発現 |
研究課題/領域番号 |
21113006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
肥後 順一 大阪大学, たんぱく質研究所, 特任研究員 (80265719)
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研究分担者 |
高野 光則 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40313168)
菊池 誠 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50195210)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フォールディング / ドッキング / 自由エネルギー地形 / 計算機シミュレーション / 全原子モデル / 粗視化モデル |
研究実績の概要 |
(1)天然変成蛋白質(IDP)は、機能発現に際してcoupled folding and binding(CFB)と呼ばれる特徴的な性質と持っている。これまで我々は、全原子マルチカノニカル分子動力学(全原子McMD)法により、二つの天然変成蛋白質系の自由エネルギー地形を求めた(NRSF-mSin3複合体とpKID-KIX複合体:それぞれの複合体で前者がIDP、後者がパートナー分子)。H24年度は、この手法をさらに複雑なIDPの系に適用可能にすべく、計算に仮想系を持ち込み、それを現実系(全原子モデル)とカップルさせた手法(virtual-system coupled multi canonical molecular dynamics simulation)を開発した。テストとしてエンドセリンのダイマー形成の自由エネルギー地形の算出に応用した(論文を2報発表)。また、IDP研究を創薬技術へ応用することを念頭に置き、mSin3とある化合物の複合体形成を全原子McMDで調べ、その多様な結合様式を算出した(本領域のメンバーである横浜大の西村との共同研究)。 (2)粗視化モデルを用いた研究では、全原子McMDから得られたNRSF-mSin3の自由エネルギー地形を再現するように条件を決めた上で、粗視化モデルシミュレーションを行った。その結果、系の立体構造に含まれるフラストレーションが、変成状態を誘起するという新しい物理的な描像が得られた(論文2報)。 (3)粗視化モデルと全原子モデルの中間に位置するモデル(中間モデル)を創出し、NRSF-mSin3系やpKID-KIX系に適用した。その際、実験結果や全原子計算の結果を取り込まない一般的な力場を開発した。興味深いことに、それでもCFBを再現できた。今後は、実験や全原子計算の結果とより良い一致が得られるように、力場の改良を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全原子計算では、計算手法をより拡張して複雑な系に対して応用できるようにするという目標を達成できた。粗視化モデルでは、全原子モデルの結果を再現させる計算の中から、その再現にとどまらず新たな描像を抽出できた。中間モデルでは、実験や全原子モデルからの情報(知識)を取り入れない力場を使ってcoupled folding and bindingを再現できた。実験結果を参照することなくcoupled folding and bindingを再現するのは、全原子モデル以外では難しい課題である。中間モデルで実験結果を参照する必要がないと言うことは、応用範囲が広がることを意味する。今後、強力かつ汎用的な分子シミュレーションの手法になる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
全原子マルチカノニカル分子動力学計算においては、本領域の実験研究者により発見されたより複雑な天然変成蛋白質の系の自由エネルギー地形を算出する。粗視化モデルでは引き続き、coupled folding and binding現象の中に潜む物理的な因子の導出を行う。さらに、中間モデルでは、天然変成たんぱく質の自由エネルギー地形を短時間に算出するために、力場のさらなる改良を行う。以上の研究を通じて、全原子モデル、粗視化モデル、さらには実験を見渡せる天然変成蛋白質機能発現の包括的な理論を創出する。
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備考 |
上記ホームページは本領域全体のホームページであるが、本課題の代表研究者が作成を担当している。領域全体の研究結果の紹介や、研究会やシンポジウムの開催の連絡、および開催後の報告等、さまざまな情報発信を行っている。
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