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2012 年度 実績報告書

植物におけるCO2シグナル伝達の分子遺伝学的解析

計画研究

研究領域植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明
研究課題/領域番号 21114002
研究機関九州大学

研究代表者

射場 厚  九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10192501)

研究期間 (年度) 2009-07-23 – 2014-03-31
キーワードCO2 / 高等植物 / 気孔 / シグナル伝達 / サーモグラフィー
研究概要

1)CO2シグナル伝達因子HT1のアリルを用いた機能解析:ht1変異体は低CO2条件下でも気孔開度が小さく、相対的に高温を示す変異株として単離された。これらht1劣性変異体における気孔の開閉異常はCO2特異的であった。HT1はプロテインキナーゼであり、この変異はキナーゼ活性を低下させた。一方、高CO2条件下でも低温を示すht1D優性変異体が見つかり、その変異部位はキナーゼ間で保存性が高い部位ではなく、ArgからLysへの1アミノ酸置換を引き起こすものであった。ht1D変異を持つHT1キナーゼの活性を調べたところ、阻害剤に対するキナーゼ活性の特性は正常HT1と変わらないが、キナーゼ活性がごくわずかに上昇していた。HT1キナーゼの立体構造予測から、元のArg残基がキナーゼの不活性化型を安定化させているが、Lysへ置換されるとその不活性化型を不安定化させることが予想された。以上のことからHT1キナーゼの活性やタンパク量の厳密な制御が生体内のCO2応答に必要であると考えられる。
2)孔辺細胞特異的葉緑体機能の機能解析:表皮組織細胞から分化して作られる孔辺細胞には葉緑体が存在し、そのことは葉緑体を保持しない表皮細胞とは異なる最大の特徴である。そのような孔辺細胞葉緑体をもたない変異体gles1を単離した。gles1によって、孔辺細胞に含まれるプラスチドは、葉緑体膜系を特徴づけるチラコイド膜の形成が阻害されることが明らかとなった。一方、葉肉細胞の葉緑体の構造は影響を受けなかった。gles1の気孔におけるCO2は応答性が著しく低下していた。また、光による開口応答も阻害された。さらに、gles1変異により、CO2によるS型陰イオンチャネルの活性制御が損なわれることがわかった。これらの結果は、葉緑体がCO2および光による気孔開閉メカニズムにおいて、重要な役割を果たしていることを示している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

1)ht1変異株の気孔は、青色光やアブシジン酸 (ABA) に対する応答は正常だが、 CO2応答性は消失している。この変異の原因遺伝子HT1はタンパク質キナーゼであり、植物において初めて同定されCO2シグナル伝達因子である。本年度の研究により、HT1因子は、CO2による気孔応答をオン・オフするマスターレギュレータであることが判明した。この因子の単離によって、植物におけるCO2シグナル伝達系解明の突破口が見いだされることが可能となり、当初の計画以上に進展している。
2)表皮細胞には葉緑体は存在しないが、例外的に同じ表皮細胞系譜の孔辺細胞には葉緑体が存在する。この葉緑体は気孔器官の高次情報処理中枢を担うことが想定される。今回単離されたgles1変異体は、当初の研究計画では予想されていなかった気孔の葉緑体の高次情報処理における役割や発生メカニズムを明らかにする上で有用な解析ツールであり、当初の計画以上に進展している。

今後の研究の推進方策

1)本研究によって最初のCO2シグナル伝達因子HT1が同定されたが、未だ植物のCO2センサーは不明である。サーマルイメージング技法による順遺伝学的アプローチを引き続き継続させるが、新たな試みとして気孔の湿度応答がサイレントな高湿度環境下で体表面温度を測定する系を確立する。これによって、純粋にCO2シグナル感知・伝達系に限定された変異株の網羅的スクリーニングが可能になると考えられる。
2)ナノランタン-ATP及びナノランタン-カルシウムは、ATP及びCa2+に結合することで発光する高輝度発光センサータンパク質である。これらのセンサータンパク質を気孔の葉緑体に発現させて、気孔に環境刺激を与えたときの、気孔葉緑体内のATP及びCa2+濃度変化をリアルタイムでモニターする実験系を開発する。また、葉緑体内と同時に、細胞質のATPやCa2+濃度変化も同様のシステムでモニターできるようにし、環境刺激による葉緑体内と細胞質のATP/ Ca2+濃度変化がどのように連動しているかを調べる

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] New Approaches to the Biology of Stomatal Guard Cells2014

    • 著者名/発表者名
      Negi, J., Hashimoto-Sugimoto, M., Kusumi, K. and Iba, K.
    • 雑誌名

      Plant Cell Physiol.

      巻: 55 ページ: 241-250

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 気孔のCO2応答2013

    • 著者名/発表者名
      橋本(杉本) 美海、祢宜 淳太郎、楠見 健介、射場 厚
    • 雑誌名

      化学と生物

      巻: 51 ページ: 831-839

    • 査読あり
  • [雑誌論文] An S-Type Anion Channel SLAC1 Is Involved in Cryptogein-Induced Ion Fluxes and Modulates Hypersensitive Responses in Tobacco BY-2 Cells2013

    • 著者名/発表者名
      Kurusu, T., Saito, K., Horikoshi, S., Hanamata, S., Negi, J., Yagi, C., Kitahata, N., Iba, K. and Kuchitsu, K.
    • 雑誌名

      PLOS One

      巻: 8 ページ: e70623

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0070623

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A Munc13-like protein in Arabidopsis mediates H+-ATPase translocation that is essential for stomatal responses2013

    • 著者名/発表者名
      Hashimoto-Sugimoto, M., Higaki, T., Yaeno, T., Nagami, A., Irie, M., Fujimi M., Miyamoto, M., Akita, K., Negi, J., Shirasu, K., Hasezawa, S. and Iba, K.
    • 雑誌名

      Nature Commun.

      巻: 4 ページ: 2215

    • DOI

      10.1038/ncomms3215

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A Dof transcription factor, SCAP1, is essential for the development of functional stomata in Arabidopsis.2013

    • 著者名/発表者名
      Negi, J., Moriwaki, K., Konishi, M., Yokoyama, R., Nakano, T., Kusumi, K., Hashimoto-Sugimoto, M., Schroeder, J.I., Nishitani, K., Yanagisawa, S. and Iba, K.
    • 雑誌名

      Curr. Biol.

      巻: 23 ページ: 479-484

    • 査読あり
  • [学会発表] H+-ATPase 局在化因子 PATROL1 による気孔運動と成長制御

    • 著者名/発表者名
      橋本(杉本)美海、絵垣 匠、秋田 佳恵、八丈野 孝、祢宜 淳太郎、白須 賢、馳澤 盛一郎、射場 厚
    • 学会等名
      日本植物学会第77回大会
    • 発表場所
      北海道大学
    • 招待講演
  • [学会発表] 気孔にガス交換機能を付与する鍵転写因子SCAP1

    • 著者名/発表者名
      祢冝 淳太郎・森𦚰 宏介・小西 美稲子・横山 隆亮・中野 利彬・楠見 健介・橋本 美海・西谷 和彦・柳澤 修一・射場厚
    • 学会等名
      第31回日本植物細胞分子生物学会(札幌)大会・シンポジウム
    • 発表場所
      北海道大学
  • [学会発表] 孔辺細胞局在型陰イオンチャネルSLAC1 のCO2による活性化制御

    • 著者名/発表者名
      山本 禎子・祢冝 淳太郎・磯貝 泰弘・射場 厚
    • 学会等名
      第31回日本植物細胞分子生物学会(札幌)大会・シンポジウム
    • 発表場所
      北海道大学
  • [学会発表] シロイヌナズナエコタイプ M e - 0 の巨大気孔の環境応答性

    • 著者名/発表者名
      門田 慧奈、祢冝 淳太郎、荒木 啓充、高橋 將、石川 忍、橋本(杉本)美海、後藤 伸治、久原 哲、射場 厚
    • 学会等名
      日本植物学会第77回大会
    • 発表場所
      北海道大学
  • [学会発表] 気孔応答に特徴のあるシロイヌナズナエコタイプの解析

    • 著者名/発表者名
      高橋 將、小西 史高、門田 慧奈、袮冝 淳太郎、後藤 伸治、射場 厚
    • 学会等名
      日本植物学会第77回大会
    • 発表場所
      北海道大学
  • [学会発表] イネの気孔閉鎖因子SLAC1の機能の生育段階依存性

    • 著者名/発表者名
      楠見健介, 橋村綾菜, 射場 厚
    • 学会等名
      第55回日本植物生理学会年会
    • 発表場所
      富山大学
  • [学会発表] 気孔のCO2シグナリング、細胞膜から細胞膜へ

    • 著者名/発表者名
      橋本(杉本)美海, 射場厚
    • 学会等名
      第16回植物オルガネラワークショップ
    • 発表場所
      富山大学
    • 招待講演
  • [学会発表] 順遺伝子学的手法を用いた孔辺細胞特異的葉緑体機能の解析

    • 著者名/発表者名
      祢冝淳太郎, 楠見健介, 宗正晋太郎, 藤田麻友美, Julian Schroeder, 射場 厚
    • 学会等名
      第55回日本植物生理学会年会
    • 発表場所
      富山大学
  • [学会発表] サーモグラフィ測定により見いだされた巨大気孔をもつシロイヌナズナエコタイプMe-0

    • 著者名/発表者名
      門田 慧奈, 祢宜 淳太郎, 石垣 元気, 荒木 啓充, 高橋 將, 石川 忍, 橋本(杉本) 美海, 久原 哲 , 明石 良 , 後藤 伸治, 射場 厚
    • 学会等名
      第55回日本植物生理学会年会
    • 発表場所
      富山大学
  • [学会発表] シロイヌナズナエコタイプの気孔応答の多様性

    • 著者名/発表者名
      小西 史高 1, 門田 慧奈 1, 祢冝 淳太郎 1, 高橋 將 1, 後藤 伸治 2, 射場 厚
    • 学会等名
      第55回日本植物生理学会年会
    • 発表場所
      富山大学
  • [備考] 植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明

    • URL

      http://plant.biology.kyushu-u.ac.jp/shinryoiki/index.html

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公開日: 2015-05-28  

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