計画研究
1)CO2シグナル伝達因子HT1のアリルを用いた機能解析:ht1変異体は低CO2条件下でも気孔開度が小さく、相対的に高温を示す変異株として単離された。これらht1劣性変異体における気孔の開閉異常はCO2特異的であった。HT1はプロテインキナーゼであり、この変異はキナーゼ活性を低下させた。一方、高CO2条件下でも低温を示すht1D優性変異体が見つかり、その変異部位はキナーゼ間で保存性が高い部位ではなく、ArgからLysへの1アミノ酸置換を引き起こすものであった。ht1D変異を持つHT1キナーゼの活性を調べたところ、阻害剤に対するキナーゼ活性の特性は正常HT1と変わらないが、キナーゼ活性がごくわずかに上昇していた。HT1キナーゼの立体構造予測から、元のArg残基がキナーゼの不活性化型を安定化させているが、Lysへ置換されるとその不活性化型を不安定化させることが予想された。以上のことからHT1キナーゼの活性やタンパク量の厳密な制御が生体内のCO2応答に必要であると考えられる。2)孔辺細胞特異的葉緑体機能の機能解析:表皮組織細胞から分化して作られる孔辺細胞には葉緑体が存在し、そのことは葉緑体を保持しない表皮細胞とは異なる最大の特徴である。そのような孔辺細胞葉緑体をもたない変異体gles1を単離した。gles1によって、孔辺細胞に含まれるプラスチドは、葉緑体膜系を特徴づけるチラコイド膜の形成が阻害されることが明らかとなった。一方、葉肉細胞の葉緑体の構造は影響を受けなかった。gles1の気孔におけるCO2は応答性が著しく低下していた。また、光による開口応答も阻害された。さらに、gles1変異により、CO2によるS型陰イオンチャネルの活性制御が損なわれることがわかった。これらの結果は、葉緑体がCO2および光による気孔開閉メカニズムにおいて、重要な役割を果たしていることを示している。
1: 当初の計画以上に進展している
1)ht1変異株の気孔は、青色光やアブシジン酸 (ABA) に対する応答は正常だが、 CO2応答性は消失している。この変異の原因遺伝子HT1はタンパク質キナーゼであり、植物において初めて同定されCO2シグナル伝達因子である。本年度の研究により、HT1因子は、CO2による気孔応答をオン・オフするマスターレギュレータであることが判明した。この因子の単離によって、植物におけるCO2シグナル伝達系解明の突破口が見いだされることが可能となり、当初の計画以上に進展している。2)表皮細胞には葉緑体は存在しないが、例外的に同じ表皮細胞系譜の孔辺細胞には葉緑体が存在する。この葉緑体は気孔器官の高次情報処理中枢を担うことが想定される。今回単離されたgles1変異体は、当初の研究計画では予想されていなかった気孔の葉緑体の高次情報処理における役割や発生メカニズムを明らかにする上で有用な解析ツールであり、当初の計画以上に進展している。
1)本研究によって最初のCO2シグナル伝達因子HT1が同定されたが、未だ植物のCO2センサーは不明である。サーマルイメージング技法による順遺伝学的アプローチを引き続き継続させるが、新たな試みとして気孔の湿度応答がサイレントな高湿度環境下で体表面温度を測定する系を確立する。これによって、純粋にCO2シグナル感知・伝達系に限定された変異株の網羅的スクリーニングが可能になると考えられる。2)ナノランタン-ATP及びナノランタン-カルシウムは、ATP及びCa2+に結合することで発光する高輝度発光センサータンパク質である。これらのセンサータンパク質を気孔の葉緑体に発現させて、気孔に環境刺激を与えたときの、気孔葉緑体内のATP及びCa2+濃度変化をリアルタイムでモニターする実験系を開発する。また、葉緑体内と同時に、細胞質のATPやCa2+濃度変化も同様のシステムでモニターできるようにし、環境刺激による葉緑体内と細胞質のATP/ Ca2+濃度変化がどのように連動しているかを調べる
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://plant.biology.kyushu-u.ac.jp/shinryoiki/index.html