研究領域 | 植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明 |
研究課題/領域番号 |
21114003
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小俣 達男 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50175270)
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研究分担者 |
愛知 真木子 中部大学, 応用生物学部, 講師 (00340208)
前田 真一 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (70335016)
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キーワード | 植物 / 環境 / 二酸化炭素 / 生産性 / 光合成 |
研究概要 |
1. モデル植物の硝酸イオン輸送変異株のCO2応答の解析 シロイヌナズナのnrt変異株を利用して実現した「恒常的窒素制限状態」の植物体を高CO2条件下におくと、Shoot/Root比の低下や細胞内の硝酸イオン含量の低下、アントシアニンの蓄積等の既知の窒素欠乏の症状が顕在化する。しかし、窒素欠乏条件下で低下することが知られている植物体当りクロロフィル総量は逆に増加し、抑制されるはずのクロロフィル合成系遺伝子CHLI1, HEME2の発現レベルも変化せず、さらに、トランスクリプトームの変化も既知の窒素欠乏応答とは大きく異なっていた。以上から、nrt変異株において高CO2環境で顕在化した窒素欠乏の症状は、単純な窒素枯渇への応答とは異なり、制限された窒素の高CO2環境への適応への優先的使用を伴うものであると結論した。 2. 野生植物の窒素感受性の解析 モウセンゴケ属の近縁3種の中でもっとも窒素感受性の高いモウセンゴケ(Dr)と、Drに由来する交雑種で、窒素感受性が比較的低いトウカイコモウセンゴケ(Dt)を比較し、DrがDtや他の植物より顕著に高い濃度の亜硝酸イオンを葉内に蓄積し、これにともなって葉の赤色化が進んで枯死にいたることがわかった。このことから、亜硝酸イオンの蓄積量の違いが窒素感受性の差異の原因と推定した。また、Drに対するCO2の影響を調べたところ、本来の生育条件である低窒素条件下では、高CO2処理によって地上部の生存日数が約10日間長くなり、他の植物での「高CO2濃度が老化を促進する」という報告とは逆の結果となった。以上の結果からモウセンゴケは、高窒素条件耐性かつ高炭素条件感受性であるモデル植物や栽培植物とは逆のC・N応答性をもつことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度に導入したCO2濃度制御のための植物栽培用人工気象器が初期のトラブルのために稼働が遅れたため、約半年間の研究の遅れが生じているが、その点を除けば、全体として研究は当初計画通りに進行している。実験室内での「恒常的窒素制限状態」の再現は計画通りに実現することができ、この状態に曝された植物が高CO2環境下で示す窒素制限に起因する表現型が、既知の窒素欠乏応答と異なることを明らかにすることができた。一方、貧栄養湿地に分布する湿原植物については、当初予想していた「高窒素感受性」に加え、「高炭素耐性」の点でもモデル植物や栽培植物と異なる性質をもつことを発見できた。
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今後の研究の推進方策 |
恒常的窒素制限状態におけるモデル植物の高CO2応答の解析については、平成23年度まで幼植物を用いた研究に主眼をおいてきたが、平成24年度後期からは、栄養生長後期から生殖生長期までの高CO2応答についての研究を開始する。幼植物の場合と同様、シュート・根のバイオマス、色素含量、形態、C・N含量、形態、メタボローム・トランスクリプトーム解析を行い、恒常的窒素制限状態における長期間にわたる高CO2条件の影響を明らかにする。 貧栄養環境に生育する野生植物の高CO2応答の解析においては、平成23年度までは、温室での栽培実験によって解析してきたが、平成24年度からは、より厳密な条件設定のもとに実験を行うため無菌培養系を用いた研究を開始する。モウセンゴケがシロイヌナズナとは対照的に高窒素ストレス感受性で高炭素ストレス非感受性であるとの平成23年度までの結果に基づき、糖と硝酸塩のバランスを変えた種々の条件のもとで発芽時と発芽後の幼植物の生長を調べる。さらにシラタマホシクサなど、他の湿原植物についても同様の解析を行って、貧栄養環境に生育する植物のC/Nバランスの変化に対する応答の特性を明らかにする。
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