計画研究
1. モデル植物の硝酸イオン輸送変異株のCO2応答の解析シロイヌナズナのNRT変異株を利用して実現した「恒常的窒素制限状態」の植物体を高CO2条件下におくと窒素欠乏様の症状が顕在化するが、この現象を地上部におけるC/N含量比の有意な上昇から裏付けた。窒素欠乏様症状のうちアントシアニンの蓄積は、マイクロアレイ解析によってアントシアニン合成関連遺伝子の発現の上昇と対応づけられたが、昨年度の結果と同様に、それ以外の遺伝子の応答は既知の窒素欠乏応答と大きく異なっていた。また、主要代謝物レベルを調べたところ、37代謝物の高CO2に応答した有意な変動が見られたが、これらは野生株と変異株の間で有意な差は認められなかった。以上から、NRT変異株は制限された窒素を優先的に使用することにより、主要代謝経路を野生株と同様のレベルに維持しているものと結論した。2. 野生植物の窒素感受性の解析昨年度に引き続き、モウセンゴケ属植物の高CO2応答についての研究を進め、低窒素および高窒素条件における高CO2の影響を比較解析した。低N条件下では高CO2により、モウセンゴケ(Dr)とトウカイコモウセンゴケ(Dt)で葉齢の高いロゼッタの枯死が促進され、若葉が残存・成長したものの葉長の総和は低下した。一方、高硝酸培地で観察される高窒素感受性は高CO2により緩和され、Dr, Dtの生存率は上昇し、およそ20日程度生存期間が延長した。この時、葉長の低下も抑制され、特にDtにおいて顕著であった。以上の結果から、モウセンゴケ属Dr, Dtにおいては、低N条件では高CO2による老化の促進と成長抑制が起こるが、高N条件ではこれらが緩和されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、モウセンゴケの窒素感受性に対する高CO2の影響に関する知見を深化させるため、CO2濃度制御のための植物栽培用人工気象器の利用をモウセンゴケ優先にした。そのため、シロイヌナズナを用いた研究に約半年間の遅れが生じているが、その点を除けば、全体として研究は当初計画通りに進行している。CE-TOFMSを用いた主要代謝産物の解析から「恒常的窒素制限状態」の植物が、主要代謝経路の高CO2応答を窒素十分状態の植物と同様に維持するために、制限された窒素を優先的に使用していることを明らかにできた。
恒常的窒素制限状態におけるモデル植物の高CO2応答の解析については、メタボローム解析のデータを精査し、恒常的窒素制限状態の植物の高CO2応答のマーカーとなるような特徴的な変動を見せる代謝物の探索を行う。モウセンゴケ属の中でもっとも高い窒素感受性を示すモウセンゴケ(Dr)に見られる亜硝酸イオンの蓄積の原因を解明するため、本年度は硝酸還元酵素、亜硝酸還元酵素の活性とタンパク量を分析したが、再現的な結果が得られなかったので、来年度は、より精度の高い遺伝子発現レベルの分析を中心にして研究を実施する。
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湿地研究
巻: 3 ページ: 3-14
Plant and Cell Physiology
巻: 53 ページ: 1561-1569
10.1093/pcp/pcs095