計画研究
これまでに、二酸化炭素濃度と窒素栄養環境が植物の代謝バランスに与える影響を評価するために、光強度や二酸化炭素濃度や無機態窒素の種類と濃度を変化させた24つの異なる栄養環境で栽培したシロイヌナズ野生型株のメタボローム解析を行い、二酸化炭素濃度と窒素栄養環境が及ぼす効果を確立させてきた。今回、これらの生育環境で栽培した転写因子Dof1の遺伝子を導入することによりアンモニア同化能力を強化した形質転換シロイヌナズナを用いた同様のメタボローム解析を行なった。メタボローム解析に使用したサンプル数が十分ではないため、未だ結論に至るには不十分なところがあるものの、炭素骨格の供給量を増大させることによって強化されたアンモニア同化能力は二酸化炭素濃度の上昇により増える炭素骨格の供給量に見合った程度の代謝バランス変動を引き起こすものの、二酸化炭素濃度が高くともアンモニアが十分に供給されない環境では野生型シロイヌナズナとほぼ同じ代謝バランスとなることを示唆した。このことから栄養環境の違いが遺伝的多様性よりも高二酸化炭素濃度の効果を決定する要因となる可能性を示唆した。さらに、シロイヌナズナの硝酸応答において中心的な役割を果たす転写因子NLPの同定に成功して、このNLP転写因子の機能を阻害すると硝酸還元に関わる酵素遺伝子のみならずアンモニア同化に関わる酵素遺伝子も大幅に減少すること、また、NLPの機能の抑制により硝酸によって発現が誘導される転写因子遺伝子の発現も低下することを見出し、このNLP機能を抑制したシロイヌナズナ形質転換体は高二酸化炭素濃度の効果に及ぼす硝酸シグナルの伝達の影響を明らかにする優れた材料となることを示した。
2: おおむね順調に進展している
二酸化炭素濃度、窒素栄養環境および光強度が異なる24つの生育環境で栽培した野生型シロイヌナズナのメタボローム解析を終え、二酸化炭素濃度の上昇がもたらす代謝バランスの変化の精査を終了している。窒素同化能力強化シロイヌナズナを用いた解析は結論には至っていない一方で、当初計画にはなかった窒素応答改変シロイヌナズナを作出している。この窒素応答改変シロイヌナズナにおいて二酸化炭素濃度の上昇によって代謝バランスがどのように変化するかを調べることは、極めて意義のあることである。このように、解析が若干遅れている部分と予定以上に進行している部分があることから、全体としては、ほぼ予定通りに進捗していると判断する。
転写因子遺伝子導入によって窒素同化のための炭素骨格の供給量を増大させ、アンモニア同化能力を強化した形質転換シロイヌナズナを用いたメタボローム解析を完結させることにより、アンモニア同化能力よりも土壌中の窒素環境のほうが植物の高二酸化炭素濃度の効果に大きな影響を及ぼすという知見を確立する。さらに、硝酸応答において中心的な役割を果たす転写因子NLPの機能抑制株のメタボローム解析を実施することにより、硝酸シグナル伝達機構が代謝バランスにおける高二酸化炭素応答に及ぼす影響を明らかにする。また、このNLPの機能抑制株を用いたトランスクリプトーム解析も行なうとともに、主成分解析やクラスター解析なども実施する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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